ジェリーが運動音痴克服のため、本格的なトレーニングを開始して数日が経った頃…-。
私はこの日、彼の様子をうかがうため城を訪れていた。
城のホールでは、専属のトレーナーをつけて、ジェリーがトレーニングに励んでいた。
かなりハードな練習なのか、床には汗の落ちた跡がある。
(頑張ってるんだ……)
必死のトレーニングの様子に、思わず声をかけるのも忘れていると……
ジェラルド「〇〇!」
私の姿を認めたジェリーが、嬉しそうに駆け寄ってきた。
ジェラルド「嬉しいです、来てくれたんですね!」
〇〇「……はい、応援に。これ、良かったら」
行きがけに買ってきた、スポーツドリンクを差し出す。
ジェラルド「ありがとう……!」
にこやかな笑顔で応え、彼はそれを受け取ってくれた。
〇〇「調子はどうですか?」
ジェラルド「好調です。ちょうど3日後に新しいオーディションも決定したので。 しかも、アクション映画で有名な監督の次回作なんです!」
〇〇「本当ですか!? 特訓の成果がでるといいですね」
ジェラルド「まだ自信はないですけどね」
そうは言うけれど、ジェリーの表情は心なしか前よりも男らしい。
(合格するといいな……)
必ず応援に行くと伝えて、特訓の邪魔になるといけないからと、この日は城を後にすることにした…-。
…
……
そして数日後…-。
私はジェリーを応援するために、オーディション会場を訪れた。
だけど、関係者以外立ち入り禁止との張り紙がしてある。
(ずいぶん大きな会場……)
オーディションの規模に、思わず息を呑む。
するとそこに、マネージャーの運転する車でジェリーがやってきた。
〇〇「今日、頑張ってくださいね」
ジェラルド「はい……」
少し緊張してるのか、いつもより表情が硬い。
ジェラルド「あの……〇〇、少し気合を入れてもらえませんか?」
突然の申し出に、瞬きをしながら彼の顔を見る。
ジェラルド「背中、叩いて欲しいんです。僕が最後までやりきれるように」
〇〇「私なんかで良ければ」
私は言われた通り、力いっぱい彼の背中を叩いた。
ジェラルド「……よしっ!!」
ジェリーは自らも頬を叩き、目に力を宿す。
ジェラルド「……行ってきます!」
〇〇「はい!」
その時、背の高い彼が少し屈んで……
〇〇「……っ!」
私の頬に、ジェリーの唇が触れた。
〇〇「い、今の……」
柔らかな感覚が残るのに、頬が熱くなる……
ジェラルド「さっきのお礼です、じゃあ行ってきます!」
無邪気に笑い、ジェリーは背を向けて会場に歩み出した。
その背中は、舞台挨拶の時に映画で見た時よりも、逞しく頼もしくなってるように見えた…-。