静かな店内に、時折グラスを合わせる音が響いてくる…-。
ジェリーが口にしたのは、私が想像もしていなかった悩みだった。
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ジェラルド『ラブロマンスも素敵だけど、それしかできないと……。 見た目だけだって、記者達が影で言ってるの、知ってるんです……』
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(あんなに素敵な役をこなしていたのに……)
舞台挨拶で上映された映画を思い出して、胸が痛くなる。
ジェラルド「この先、どうしたらいいのかと……」
暗い表情で窓の外を眺めるジェリーを見て、私も思考を巡らせる。
〇〇「監督や制作会社の人達にアピールしてみてはどうでしょうか? ジェリーの挑戦してみたい、その……」
ジェラルド「アクションとか?」
〇〇「はい」
ジェラルド「……」
けれどジェリーの表情は、相変わらず浮かないまま……
〇〇「難しいんでしょうか?」
ジェラルド「……難しいというか、これから話すこと、笑わずに聞いてくれますか?」
(ジェリー……?)
神妙な面持ちでつぶやいたジェリーに、私は……
〇〇「どうして? 笑われるような話なんですか?」
ジェラルド「笑い話というか……」
聞き返すと、ジェリーは気恥ずかしそうに苦笑した。
ジェラルド「実は僕、命に関わるようなレベルで……すごく運動音痴なんです」
〇〇「……え?」
ジェラルド「だから運動音痴……」
早口で言って、額を手で覆う。
〇〇「……」
思いもよらないジェリーの言葉に、私は瞳を瞬かせる。
ジェラルド「……やっぱり恥ずかしいですね、自分の弱点を人に言うのは。 何に対してもポジティブなのが僕のモットーなんですが、運動だけはダメなんです……」
〇〇「そ、そんなことは…-」
ジェラルド「ううん、前なんて普通の恋愛物だったのに、走っている姿がかっこよくないからNGと言われて……。 その時はプロのランナーの走りをダンスの振りを覚えるようにして覚えて……。 事無きを得たんですが……。 だから、アクション映画なんてとても……」
ジェリーは大きくため息をつくと、黙り込んでしまった。
〇〇「……」
私も彼の様子に、何と言葉をかけていいものかがわからずに……
ジェリーのため息に重なって、思わず、私までため息をこぼしてしまうのだった…-。