ジェリーに連れて来てもらったレストランで…-。
私達は今日の映画の話を続けていた。
〇〇「とにかく主人公の女の子の切ない気持ちがすごく伝わってきて、恋愛模様にドキドキしました」
ジェラルド「嬉しいです、そんなに楽しんでくれただなんて」
〇〇「はい、素敵な映画でしたから」
ジェラルド「じゃあ、僕の役どころは?」
少し真面目な顔になって、ジェリーが私に問いかけた。
(映画の中のジェリーは……)
〇〇「優しくて、まさに王子様のようでした」
ジェラルド「王子様……そうですか。まあ、実際僕はこの国の王子だし……」
私の言葉に、ジェリーの表情が曇り始める。
〇〇「あの……すみません、私、何か失礼なこと言ってしまいましたか?」
ジェラルド「ああ、すみません! 気にさせちゃいましたか? そんなつもりじゃなかったんですが。 ただ僕、王子ってイメージが先行してるせいか、出演の依頼もそういう役が多くて。 このままじゃ役者として先細りしてしまうんじゃないかと心配なんです……」
〇〇「そんな……」
彼は苦笑いすると、口元をナフキンで軽く拭く。
ジェラルド「すみません、いきなり変なこと言ってしまいましたね。 ただ……ビオスコープに加盟する国の王子として、もっと自分を磨きたい……そう思うんです」
〇〇「ビオスコープ……この国も加盟している、映画を作る団体でしたっけ」
ジェラルド「はい。優れた映画を輩出するための、国々の連合組織です」
ジェリーが、手でグラスを弄ぶ。
ジェラルド「ビオスコープに加盟している国の王族は皆、何か映画に関わっています。 僕の家も……父や母も含めて、代々映画俳優として成功しているので僕もそれに続きたいんです。 自分で言うのもなんですか……『ロマンディアの白薔薇』なんてもてはやされていても、そんなの、若いうちだけですから」
ジェリーは眉間に皺を刻む。
〇〇「あの、じゃあ恋愛物はもう……」
ジェラルド「ううん、嫌いじゃないですし、出演したくないわけじゃないですよ! 僕の姿を見て、女の子達がときめいてくれるなんて、養成所時代には考えられませんでしたから」
〇〇「養成所?」
ジェラルド「ああ……僕、小さい頃から俳優になるために、王立養成所に寄宿舎で過ごしていたんです。 そのまま俳優としてデビューしてからも、何かとこの業界は男の世界で……。 だから、あまり女の子と話す機会がなかったんです」
〇〇「そうだったんですか……」
ジェラルド「はい、女性への心得とかは、姉や妹にうるさく言われたから、身につけているんですけどね」
困ったように笑う彼を見て、車の中でのことを思い出す。
―――――
ジェラルド『あなたみたいな可愛い子と一緒に行けることは、めったにないですから』
―――――
ジェリーのエスコートは確かに、物語の中の王子様のようだった。
ジェラルド「まるで、型にハマったエスコートになってしまってないか、不安だったんですか……。 不快な思いはさせてませんか?」
〇〇「いえ、そんなことは……!」
ジェラルド「なら、よかった」
安心したように、ジェリーの表情が緩む。
その屈託の無さに、胸に温かな気持ちが広がった。
(……きっとこの表情が、飾らないジェリーの顔なんだ)
ジェラルド「けど……」
〇〇「……?」
不意に寂しそうな声を発したジェリーを見返すと、何かを言いかけて、また遠い目になってしまった。
(ジェリー……?)
その視線は、私を越えて後ろにある窓に向けられているようだった。
ジェラルド「ラブロマンスも素敵だけど、それしかできないと……。 見た目だけだって、記者たちが影で言ってるの、知ってるんです……。 本当はもっとアクションとかハードな役にも挑戦していきたいんですが……」
口に出た言葉は、深い悩みを抱えてのもののようだった…-。