第3話 近づく距離

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ジェラルド『そうだ、あなたのために、この後はオフを取ってあるんです』

〇〇『私のために……?』

ジェラルド『はい! せっかくだから、一緒に食事に行きたいなと思って』

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一緒に食事に行こうと、控室を出たところで……

ジェラルド「あ! 〇〇、ちょっといいですか?」

〇〇「……?」

ジェリーは手で隠すようにして、私の耳元に唇を寄せる。

ジェラルド「先に表から出て……一度、駅の方にゆっくり歩いていってもらえますか?」

ジェリーに言われて、外の様子を思い出す。

劇場の外までファンの人達があふれていたことに気付いて、私は頷いた。

ジェラルド「よろしく、僕も後から行きますから」

〇〇「わかりました、駅の方ですね」

ジェラルド「うん、一緒に出られなくてごめんなさい」

寂しそうに、ジェリーが眉を寄せる。

ジェラルド「じゃあ、また後で」

彼は優雅に手を振った後、すっと踵を返した。

(やっぱり、有名人なんだ……)

……

言われた通りに正面入り口から外に出ると、辺りはもう暗くなっていた。

集まったファンの子達は、誰もが目をキラキラと輝かせている。

ファン1「あー、もう最高だった! ジェラルドくんのあの笑顔!!」

ファン2「もう、見てるだけで幸せだよねー!!」

(やっぱりすごいな)

(こんなに多くの人に、夢を与えられるなんて……)

今更になって、ジェリーのすごさを再確認する。

そんな人が、私ために時間を割いてくれる……

(なんだかドキドキしてくる……)

足取りが自然と軽くなり、私は駅へと向かった…-。

……

ロマンディアの街は、古き良き街並みの中にも遊び心が感じられて、ただ歩いているだけでも、楽しげな気分になった。

(あ、あれは……)

ライトに照らされた大型の看板の中に、ジェリーの姿を見つける。

(何かの広告かな?)

さきほど控室で見た彼とは違う、凛とした笑顔がまぶしい。

(この笑顔も、素敵だけど)

私に見せてくれた、柔らかな笑顔を思い出す。

(あの笑顔が早く見たいな)

そんなことを思いながらしばらく歩いていると、駅が見えてきた。

(ジェリー、どこにいるんだろう?)

その時……

後ろから車の音が聞こえてきた。

黒塗りの高級車が徐々にスピードを緩めると、私の横で停止した。

ジェラルド「……〇〇!」

(……? この声……)

窓から私の名を呼んだ人は、眼鏡をかけ目深に帽子を被っていた。

かすかに眼鏡のフレームがずらされると、そこに見えたのはアメジスト色の瞳……

〇〇「あ、ジェリーーっ」

思わず名前を呼びそうになって、口を閉じる。

そんな私を見て、ジェリーはくすりと微笑んだ。

ジェラルド「お待たせしました! 人に見つからないうちに乗ってください」

後部座席のドアを開けて、ジェリーが私を手招きする。

ジェラルド「さ、早く」

〇〇「は、はいっ!」

手早くドアを開けて、ジェリーが私を車の中へ案内する。

すると彼は帽子とメガネを外して、胸元から取り出したハンカチを席に敷いてくれた。

〇〇「ありがとうございます」

ジェラルド「当然のマナーですよ。 小さな頃から姉と妹に囲まれて育ってきたので。女の子には優しくするようにって、言われて」

柔らかな微笑を浮かべられてそう言われると、なんだかくすぐったい気持ちになる。

ジェラルド「大丈夫です、車を出してください」

私が乗り込んだことを確認して、ジェラルドさんが運転席に声をかける。

どうやらマネージャーさんが車を運転しているらしい。

ジェラルド「〇〇。今日は僕の行きつけのお店に行きましょう。 お店のオーナーシェフがすごく素敵な料理を出してくれるんです」

〇〇「少し緊張しますね」

ジェラルド「〇〇もですか?」

〇〇「……? 行きつけのお店なんですよね?」

ジェラルド「あなたみたいな可愛い子と一緒に行けることは、めったにないですから」

〇〇「……!」

無邪気に発せられる言葉に、私の頬が熱を持つ。

ジェラルド「……どうしましたか?」

〇〇「いえ……なんでもないです」

(こういうエスコートには、慣れてるんだろうな……)

隣に座るジェリーの顔をまじまじと見つめる。

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ジェラルド『わぁ……! 来てくれてたんですね、ありがとう!』

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凛として舞台に立ったり、無邪気に微笑んでみせたり……

(そして今はこうして、私をエスコートしてくれている)

ジェリーのいろいろな表情を見るたびに、彼との距離が縮まっていくような気がしていた…-。

 

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