その後も…-。
私が何度もルグランジュくんを訪ねても、彼の顔を見ることは叶わなかった。
…
……
夜も深まった頃、どうしてもルグランジュくんが気にかかり再度部屋を訪ねると…-。
執事「先ほどふらりと街へ出ていかれたようで……」
〇〇「街へ……?」
執事「はい。ひとりで行くと仰せで、供もつけず……」
執事さんが深いため息を吐いた。
〇〇「……ありがとうございます、行ってみます」
私はすぐ、ルグランジュくんを追いかけて夜の街へと出た。
…
……
ルグランジュくんと歩いた道にある綺麗な街灯の明かりが、今はやけに寂しげに見える。
(いた……!)
街の片隅の公園で、ベンチに寂しげに座っているルグランジュくんを見つけた。
ルグランジュ「……」
〇〇「ルグランジュくん!」
憔悴した様子の彼に、急いで駆け寄った。
〇〇「ルグランジュくん? どうかしたんですか? 何かあったとか……?」
ルグランジュ「……」
(目が赤い……泣いてたの?)
訝しげに向けられる視線に、胸がちくりと痛みを覚える。
(私、嫌われるようなことしちゃったのかな?)
恐る恐る、彼の隣に腰をおろす。
(聞くのは怖いけど、このままわけがわからないのは、もっと嫌だ……)
〇〇「あの…―」
勇気を振り絞って口を開いた、その時……
ルグランジュ「〇〇ちゃん……」
ようやく、ルグランジュくんが私の名前を呼んでくれた。
かと思ったら…-。
ルグランジュ「……結婚するんだよね」
〇〇「え?」
ルグランジュ「〇〇ちゃん、今日婚約したんだよね?」
〇〇「婚…約……?」
(婚約って……?)
予想もしていなかった言葉に、私は目をしばたたかせる。
ルグランジュ「とぼけなくてもいいんだよ。オレ、知ってるから……。 〇〇ちゃんが結婚するって!!」
そこまで一気に言うと、ルグランジュくんは、くっと顔をしかめた。
〇〇「……ちょっと待って、私、結婚なんてしないですよ?」
ルグランジュ「え……? でも……」
〇〇「本当です。そんな予定もありません」
私がきっぱりと言い切ると、ようやくルグランジュくんは目が覚めたような顔をする。
ルグランジュ「じゃ、じゃあ、何か間違えたのかな!?」
〇〇「勘違いなんじゃないかと……とにかく、私は結婚の予定はないです」
ルグランジュ「もしかして……オレの見た系図は、別の女の子のことだった……?」
気の抜けた声でそう言うと、ルグランジュくんはベンチに体を預けた。
〇〇「そもそも……私のことは見られないのでは?」
ルグランジュ「そ、そうだった! そうなんだけど、頭が真っ白になって! すごく……驚いたんだ」
ふいと、ルグランジュくんは私から顔をそらしてしまう。
(すねてる……?)
すぐ傍にいるのに、わずかに背を向けられていることが辛くて……
〇〇「……」
思わず、そっと彼の手に触れた。
ルグランジュくんは一瞬、びくっと体を揺らしたけれど、やっぱりこちらを見てくれない。
けれど…-。
ルグランジュ「……本当に結婚しない?」
やがて絞り出されるような声が聞こえて、私はしっかりと返事をした。
〇〇「はい」
ルグランジュ「ホントの本当?」
〇〇「はい、本当です。だって……私が好きな人は……」
そっぽをむいていながらも、ルグランジュくんが私の言葉に息を飲んだことがわかる。
そんな彼がこの上なく愛しくて、胸がくすぐったくなった。
〇〇「……ルグランジュくんだから」
ルグランジュ「……っ!」
その瞬間、ルグランジュくんの肩が大きく揺れた。
(ルグランジュくん……?)
彼の手に添えられていた私の手が、強く握りしめ返されて……
ルグランジュ「もう……っ、仕方ないな」
〇〇「……っ」
ようやく振り向いてくれたと思った瞬間、背中に腕を回され強く抱き締められた。
〇〇「ルグランジュくん……?」
頬を両手で包まれ、彼の潤んだ瞳がゆっくりと近づく。
そして…-。
〇〇「……んっ」
求めるような深いキスを受けて、うっとりと目を閉じた。
(熱い……何も考えられなくなりそう)
やがてルグランジュくんは口づけを解くと、気まずさと恥ずかしさの入り混じった顔を隠すように、また横を向いてしまった。
〇〇「……?」
ルグランジュ「絶対、内緒で結婚しないで」
〇〇「……はい」
ルグランジュ「約束破ったら、またキスするからね」
すねているような口ぶりが微笑ましくて、心の中で笑いながら答える。
〇〇「わかりました」
ルグランジュ「破らなくても、キスするからね」
〇〇「……っ」
ルグランジュくんが、また振り向いて、私に甘い吐息を近づいてくるのに時間はかからなかった…-。
…
ちょうどその頃…-。
街のとある店で、〇〇によく似た女性と彼女を抱き寄せる男性が、たくさんの人に囲まれ、婚約の祝福を受けていた…-。
おわり。