仕事中に見た石板の記録の中に記された、今度結婚するという女性の特徴が、〇〇に似ていると気付いたオレは、彼女を探しにレコルドの街へと飛び出した…-。
…
……
ルグランジュ「あ、ごめん!! ……くっそ、どこに……!?」
街を行き交う人々を掻き分けながら、彼女の姿を探して視線を走らせる。
(どこだ? どこにいる!? 〇〇ちゃんっ!!)
ルグランジュ「オレ、まだ君に気持ち伝えられてないのに……!」
…
……
大柄な人をよけながら前へ踏み出した時、目に飛び込んできたのは、照れたような微笑みを浮かべる彼女と、同じようにはにかんでいる男で…-。
ルグランジュ「!! 〇〇ちゃん!」
思わず大声で〇〇ちゃんの名前を叫ぶと、一気に彼女の傍まで駆け寄った。
(〇〇ちゃんが手に持っているあれは……まさか、指輪の箱!?)
ルグランジュ「そんな……だめだ!!」
彼女と対峙している男の前まで出た時、考えるよりも先に声と腕が出ていた。
〇〇「……っ!!」
次の瞬間には、しっかりと腕の中に、決して奪われたくない彼女を抱きしめていた。
オレは思わず、目の前の男を睨みつけると……
ルグランジュ「オレ、〇〇ちゃんのことが好きなんだ!!」
絶対に阻止したいと上げた声が青空まで突き抜ける。
ルグランジュ「君と一緒に過ごしてると楽しくて、辛いことでも頑張れるんだ……。 君の笑顔とか、優しい声とか、君の全部がオレの癒しで……」
想いを言葉にすると自然と熱がこもり、彼女を抱きしめる腕にぎゅっと力が入る。
ルグランジュ「オレには君が必要だから! だからっ、絶対結婚なんてしないでっ!!」
〇〇「……っ!? 結婚って……?」
ルグランジュ「お願いだよ。〇〇ちゃん」
〇〇「ま、待ってください! 結婚って……誰がするんですか?」
ルグランジュ「えっ、だって、それは結婚の箱だよね?」
そこまで言って、何か雰囲気が違うことにようやく気づいた。
(あれ……? もしかして……)
(オレの早とちり!?)
…
……
結局、〇〇ちゃんが落とし物を拾ってあげただけだとわかり、腰が抜けたオレは、その場にしゃがみこむ。
(良かった……彼女はまだ誰のものでもない)
そのことに一番安心して、力が抜けきったオレは涙まで滲んできた。
(情けないな。こんな勘違いしてたんじゃ……きっと〇〇ちゃんに呆れられる)
涙なんか見せたくないのに、自分のふがいなさを思うとますます泣けてくる。
彼女はそんなオレの前に膝をつき、じっとオレの顔を覗きこんで……
〇〇「……勘違いに決まってるじゃないですか。 だって……私はルグランジュくんのことが好きです」
ルグランジュ「!!」
〇〇「だから、泣かないで?」
(今、何て言った? オレのこと好きって……!? え……ええっ!!)
〇〇ちゃんの顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていった。
赤く染まったその頬に両手の指先を当ててうつむいている。
〇〇「……っ」
愛らしい唇を何度か閉じたり開いたりして、彼女は言葉が出ないようだった。
その様子は、すぐにまた抱きしめたくなるほど可愛い。
(もしかしなくても……オレ達……好き……同士!?)
じわじわと両想いになったことに気づいて、オレの顔が沸騰しそうに熱を持った。
この感動と嬉しさを伝えようとしたとき……
ルグランジュ「……っ」
いつの間にか見守るように周りに集まってきていた人達が、一斉に祝福をこめた拍手をいっぱい送ってくれる。
ルグランジュ「!! ありがとう。皆……」
今度は別の熱い涙があふれてきた。
ルグランジュ「ありがとう、〇〇ちゃん」
オレは彼女の手をとって、一緒に立ち上がる。
そして、おさまらない祝福の波に見送られて、その場から少し離れた街並みを二人で歩くことにした。
ルグランジュ「もう、誰も見てないから」
〇〇「……っ」
オレが彼女の手を握りしめると、恥ずかしそうに目を伏せて頷く。
(これが、幸せ……いっぱい記録の中で結ばれる人達を見てきたけど……)
(あの記述の一つ一つには、こんなにも胸を焦がすドラマがこめられている……)
わかっていたつもりだったけれど、体感して初めてこの気持ちを本当に理解することができた。
(これも彼女のおかげだ)
ルグランジュ「〇〇ちゃん、好きだよ」
〇〇「……!」
ルグランジュ「好きな人に好きって言えるのって、とてつもなく幸せなことだね」
小さく頷く〇〇ちゃんの表情は明るく輝いていて、オレと同じように幸せそうに見える。
もっと満たされる時間が二人に訪れることを予感しながら、オレは彼女と繋いだ手を握りしめた…-。
おわり。