…
街へと飛び出たルグランジュは、人ごみの中、必死に〇〇を探していた。
ルグランジュ「〇〇ちゃん!!」
女性「え……王子?」
髪の長さや後ろから見た雰囲気で肩を掴むけれど、その女性は〇〇ではなかった。
ルグランジュ「あ、ごめん!! ……くっそ、どこに……!?」
人を掻き分けながら、視線を走らせる。
ルグランジュ「オレ、まだ君に気持ちを伝えられてないのに……!」
そう叫ぶルグランジュの声は、雑踏の音に掻き消されていった…-。
…
ルグランジュくんの仕事が終わるまでと、私はレコルドの街を散歩していた。
行き交う人々で賑わうレコルドの街を歩いていると、自然とルグランジュくんの顔が思い浮かぶ。
(ルグランジュくん……早く会いたいな)
胸が弾み、足取りも自然に軽くなる。
その時…-。
〇〇「……っ!」
??「っと! すみません!!」
すれ違った男性と、肩をぶつけてしまった。
〇〇「すみません!」
男性「いや、こちらこそ……慌てていて」
すまなさそうに私に一礼をして、男性は足早に去ろうとする。
〇〇「あ……」
ぶつかった時に落ちたのか、リボンに大切そうに包まれた小箱が目に入った。
〇〇「あの、これ…-」
小箱を拾い上げ、男性を呼び止めたその時…-。
ルグランジュ「!! 〇〇ちゃん!」
〇〇「……っ!?」
突然現れたルグランジュくんが、息を切らして駆け寄ってくる。
ルグランジュくんは近くまで来ると、私と目の前の男性、そして小箱に一瞬で視線を走らせた。
ルグランジュ「そんな……だめだ!!」
腕を伸ばされ、驚くほど強く抱きしめられる。
〇〇「……っ!!」
突然の抱擁に、息が止まってしまうかと思った。
すぐ隣に立っている男性も、目を丸くしてしまっている。
ルグランジュ「オレ、〇〇ちゃんのことが好きなんだ!!」
まるで隣の男性をけん制するようにルグランジュくんは叫んだ。
ルグランジュ「君と一緒に過ごしてると楽しくて、辛いことでも頑張れるんだ……。 君の笑顔とか、優しい声とか、君の全部がオレの癒しで……」
私を抱きしめる腕に、ぎゅっと力がこもる。
ルグランジュ「オレには君が必要だから! だからっ、絶対結婚なんてしないでっ!!」
〇〇「……っ!? 結婚って……?」
私は開いた口が塞がらず、男性も呆気に取られ……騒ぎに足を止めた通行人も唖然としている。
ルグランジュ「お願いだよ。〇〇ちゃん」
〇〇「ま、待ってください! 結婚って……誰がするんですか?」
ルグランジュ「えっ、だって、それは指輪の箱だよね?」
〇〇「……これは……」
男性「私が落としたものを、彼女が拾ってくれたんですよ。 今日プロポーズしようと思って……」
ルグランジュ「へ……?」
そこへ一人の女性がやってきて、男性に駆け寄った。
ルグランジュ「君は……さっきすれ違った……」
女性「また会いましたね、ルグランジュ王子」
私の方を見てクスリと優しく笑った後、女性は男性に声をかけた。
女性「こんなところにいたの?」
男性「ああ、待たせてごめん。行こうか」
男性はさっと小箱をポケットに入れると、こちらに小さくお辞儀をして、女性と腕を組みながら歩き去って行った。
ルグランジュ「……」
今度はルグランジュくんが呆然として、しばらく二人を眺めていたけれど……
ルグランジュ「なんだ……そうだったんだ、よかった……!」
やがてその場にへなへなとしゃがみこんだ。
〇〇「ルグランジュくん?」
彼の前に膝をついて、顔を覗き込む。
すると、ぽろりと真珠のように綺麗な涙が頬をこぼれ落ちていった。
〇〇「え……」
ルグランジュ「ビックリしたんだ。 系図を見ていたら、とある男性のプロポーズの相手が君って出て……いてもたってもいられなくて。 だって、君が他の男と婚約するって考えたら耐えられるはずないよ。 でも、勘違いだった。君によく似た人だったなんて……」
はらはらと涙がルグランジュくんの頬の上で弾け落ちていって、見ているだけで胸が熱く締め付けられる。
ルグランジュ「でも、オレ馬鹿だな。そもそも君の未来は見えないってこと、完全に忘れてた……」
〇〇「ルグランジュくん……」
どこまでも真っ直ぐな彼の想いが、私の胸を熱くさせる。
〇〇「……勘違いに決まってるじゃないですか。 だって……私はルグランジュくんのことが好きです」
ルグランジュ「!!」
〇〇「だから、泣かないで?」
ルグランジュ「〇〇ちゃん……!!」
(あ……)
大胆に告白したことに気付いた後、たちまち頬が熱を持つ。
(こんな皆の前で、私……)
いつの間にか私たちの周りを囲むように見守っていた人達が、祝福をこめた拍手をいっぱいに送ってくれた。
街の人「ルグランジュ様、おめでとうございます!」
ルグランジュ「!! ありがとう。皆……」
今度は別の熱い涙がルグランジュくんの頬を濡らしていく。
ルグランジュ「ありがとう、〇〇ちゃん」
きらめく純粋な瞳を真っ直ぐに私へと注ぐルグランジュくんに手を取られ、胸を震わせる思いで一緒に立ち上がった。
(ちょっと恥ずかしいけど……幸せだな)
おさまらない祝福の波は、私達を中心として波紋のように街中へと甘やかに広がっていった…-。
おわり。