人の不幸までわかってしまう石板の話を、ルグランジュくんから聞いて数日…-。
私はルグランジュくんに誘われて、また街を案内してもらっている。
ルグランジュ「さっきの図書館は楽しめたみたいだね」
〇〇「はい。見た目は古い石造りの建物なのに、中は最新システムなので驚きました」
ルグランジュ「まあね。それがこの国の特徴かな」
〇〇「不思議な国だと思います。あちこちで古いものと新しいものが心地よく混ざり合ってて……」
彼の傍が、いつしか私にとってすごく居心地のいい場所になっていて……
〇〇「あ…-」
夢中で自分ばかり話していることに気付いて、慌ててルグランジュくんを見ると、どきっとするような優しい眼差しが向けられていた。
〇〇「……っ」
ルグランジュ「いいね。もっと感想を聞かせてよ。君の話はオレに元気をくれる気がする……」
少し目を伏せて、ルグランジュくんは金緑色の瞳を曇らせた。
ルグランジュ「そうだな、たとえば。 オレが王子を辞めたいって言ったらどうする……?」
(王子を辞めるって……系図を司ることを辞めるってこと!?)
急に深刻なたとえ話をされて、私は目を瞬かせながらも、真剣に考える。
〇〇「まずは……話を聞きます」
ルグランジュ「……そっか……それは助かるなあ……。 あんまり弱いとこ見せたくないんだけど……君になら甘えちゃいそうだよ」
そう言って、ルグランジュくんが、私の頭にポンと手を乗せた。
ルグランジュ「ごめん。変なこと聞いたよね。忘れて……大変だけど仕事は大好きなんだ。 オレの一族がずっとやってきたことだし。ちゃんと責任果たさないとね」
〇〇「……」
―――――
男性『おーい! ルグランジュ、聞いたか? トドラさん、無事に子ども産まれたんだってよー!』
ルグランジュ『ほんとに!? よかった……!』
男性『おい~。また泣いたのか~?』
ルグランジュ『……っ! 泣いてないって!』
ルグランジュ『未来のことだから……これから死ぬ人も……その原因も石板には記載されているんだ。 仕事だってわかってるんだけど……石板にそれが刻まれた瞬間は、やっぱりすごく辛くて。』
―――――
(優しい人……)
彼が背負っているものを思うと、胸が苦しくなってしまう。
〇〇「あの……私で力になれることがあれば……!」
そう言うと、ルグランジュくんは、明るい前向きな微笑みを浮かべた。
ルグランジュ「もうなってる。君と話した次の日は仕事をより頑張れる気がするよ。 いろんな気持ちがリセットされるっていうか……とにかく、ありがとう」
〇〇「い……いえ」
手放しに褒められて、頬を熱くしてしまう。
彼の手に髪を優しく撫でられると、心も温かくなっていった…-。
…
……
そんなある日…-。
ルグランジュは今日も、系図石板の間で、熱心に仕事をしていた。
今、まさにルグランジュの目の前で、ある男の系図に新しいつながりが発生しそうになっている。
ルグランジュ「お、結婚する線が出てるな」
ルグランジュは結婚する旨を追記して、満面の笑みを浮かべる。
ルグランジュ「いい知らせだな~! こういうのがあると嬉しいよね……」
幸せな知らせに、じっとその男の経歴を目で追っていた。
すると……
ルグランジュ「今日の昼、運命の相手にプロポーズをして婚約する。いいね。素敵だ。 え~っと、相手の女性の特徴はっと……えっ!?」
ルグランジュは息を飲んで、動きを一瞬止める。
ルグランジュ「この特徴って……〇〇ちゃんの特徴と似てるけど……まさか!?」
ルグランジュは肩を震わせて、石板の前から猛然と駆け出した…-。