第2話 彼のお仕事

翌日…-。

昨日の約束を果たすと言うルグランジュくんに誘われて、レコルドの街へと二人で出かけた。

ルグランジュ「じゃあ、次はアップルパイの美味しい店を案内するよ」

〇〇「はい」

ルグランジュ「味はオレが保証する。あれ?」

話をしていると、同じ年齢くらいの数人の男女が、ルグランジュくんの名前を呼びながら、にこやかに近づいてくる。

男性「やあ、ルグランジュ。元気?」

ルグランジュ「オレはいつだって元気だよ!」

(呼び捨て? 親しい友達なにかな?)

不思議に思い二人を見ていると、ルグランジュくんが気づいて私に声をかけてくれた。

ルグランジュ「堅苦しいのは嫌いだからさ。気心知れてる人にはルグランジュって呼んでもらってるんだ」

女性「ルグランジュ、また皆で遊びに行きましょうね」

すぐにまた別の女性が声をかけてくる。

ルグランジュ「そうだね。また計画する!」

女性「楽しみ!」

その集団が通り過ぎると、また別の人が彼に挨拶していた。

(顔がすごく広いみたい……街中知り合いだらけなんだ)

ひと区画移動するたび、必ず誰かがルグランジュくんに声をかけている。

そしてまた一人……

男性「おーい! ルグランジュ、聞いたか? トドラさん、無事に子ども産んだってよー!」

その報告を聞いた途端、ルグランジュくんの顔が紅潮していった。

ルグランジュ「ほんとに!? よかった……!」

感極まったという様子で、ルグランジュくんの澄んだ瞳が、みるみると光をはらみ潤んでいく。

なんだか微笑ましくて、口元が綻んでしまう。

男性「おい~。また泣いたのか~?」

他の友達も集まってきて、涙目になったルグランジュくんを茶化していた。

ルグランジュ「……っ! 泣いてないって!」

手の甲でぐいっと涙を拭うと、白い歯を見せてぎこちなく微笑む。

(ルグランジュくん……涙もろいんだね)

男性「そういうことにしてやるよっ。じゃーな!」

去っていく友達に手を振ると、ルグランジュくんは照れた顔で、私に振り返った。

ルグランジュ「あー、驚かせてごめんね」

〇〇「嬉しいことですから」

ルグランジュ「そうなんだ。嬉しいことは、目いっぱい喜びたいからね」

(照れた顔、可愛いな……いい人なんだ)

ルグランジュ「それに……オレにとって出産は特別なことなんだよ」

〇〇「……?」

ルグランジュ「オレ、石板の間にある世界の系図の記録を管理してるから。 人の生についての未来の記録もわかるんだけど……。 やっぱり実際に報告を聞くと、嬉しくて……ついね」

照れ笑いを隠すように、ルグランジュくんは横を向いた。

(石板の間……お仕事をしているところかな?)

〇〇「先のことをわかるなんてすごいですね」

(もしかして、私のことも……?)

そんなことを思い、ルグランジュくんを見つめてしまっていると……

ルグランジュ「あ、〇〇ちゃんはトロイメアのお姫様なんだよね。 トロイメアについては、一切記載がなくて……わからないんだ」

神妙な顔つきで、ルグランジュくんが私に向き直る。

〇〇「そ、そうなんですね」

ルグランジュ「全部わかってしまうのがいいわけじゃないから……」

(確かに……ちょっとほっとしたかも)

ルグランジュ「でも、わからないのも、ドキドキしていいよね」

熱を含んだ瞳にじっと見つめられ、私の方もドキドキしてきてしまった…-。

 

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