翌日…-。
昨日の約束を果たすと言うルグランジュくんに誘われて、レコルドの街へと二人で出かけた。
ルグランジュ「じゃあ、次はアップルパイの美味しい店を案内するよ」
〇〇「はい」
ルグランジュ「味はオレが保証する。あれ?」
話をしていると、同じ年齢くらいの数人の男女が、ルグランジュくんの名前を呼びながら、にこやかに近づいてくる。
男性「やあ、ルグランジュ。元気?」
ルグランジュ「オレはいつだって元気だよ!」
(呼び捨て? 親しい友達なにかな?)
不思議に思い二人を見ていると、ルグランジュくんが気づいて私に声をかけてくれた。
ルグランジュ「堅苦しいのは嫌いだからさ。気心知れてる人にはルグランジュって呼んでもらってるんだ」
女性「ルグランジュ、また皆で遊びに行きましょうね」
すぐにまた別の女性が声をかけてくる。
ルグランジュ「そうだね。また計画する!」
女性「楽しみ!」
その集団が通り過ぎると、また別の人が彼に挨拶していた。
(顔がすごく広いみたい……街中知り合いだらけなんだ)
ひと区画移動するたび、必ず誰かがルグランジュくんに声をかけている。
そしてまた一人……
男性「おーい! ルグランジュ、聞いたか? トドラさん、無事に子ども産んだってよー!」
その報告を聞いた途端、ルグランジュくんの顔が紅潮していった。
ルグランジュ「ほんとに!? よかった……!」
感極まったという様子で、ルグランジュくんの澄んだ瞳が、みるみると光をはらみ潤んでいく。
なんだか微笑ましくて、口元が綻んでしまう。
男性「おい~。また泣いたのか~?」
他の友達も集まってきて、涙目になったルグランジュくんを茶化していた。
ルグランジュ「……っ! 泣いてないって!」
手の甲でぐいっと涙を拭うと、白い歯を見せてぎこちなく微笑む。
(ルグランジュくん……涙もろいんだね)
男性「そういうことにしてやるよっ。じゃーな!」
去っていく友達に手を振ると、ルグランジュくんは照れた顔で、私に振り返った。
ルグランジュ「あー、驚かせてごめんね」
〇〇「嬉しいことですから」
ルグランジュ「そうなんだ。嬉しいことは、目いっぱい喜びたいからね」
(照れた顔、可愛いな……いい人なんだ)
ルグランジュ「それに……オレにとって出産は特別なことなんだよ」
〇〇「……?」
ルグランジュ「オレ、石板の間にある世界の系図の記録を管理してるから。 人の生についての未来の記録もわかるんだけど……。 やっぱり実際に報告を聞くと、嬉しくて……ついね」
照れ笑いを隠すように、ルグランジュくんは横を向いた。
(石板の間……お仕事をしているところかな?)
〇〇「先のことをわかるなんてすごいですね」
(もしかして、私のことも……?)
そんなことを思い、ルグランジュくんを見つめてしまっていると……
ルグランジュ「あ、〇〇ちゃんはトロイメアのお姫様なんだよね。 トロイメアについては、一切記載がなくて……わからないんだ」
神妙な顔つきで、ルグランジュくんが私に向き直る。
〇〇「そ、そうなんですね」
ルグランジュ「全部わかってしまうのがいいわけじゃないから……」
(確かに……ちょっとほっとしたかも)
ルグランジュ「でも、わからないのも、ドキドキしていいよね」
熱を含んだ瞳にじっと見つめられ、私の方もドキドキしてきてしまった…-。