突然、街の兵士さんからおばけカボチャの苦情が出ていると言われて、ネペンテスさんは、不満顔になった後、大仰にうなだれた。
ネペンテス「この街に、私の美食を理解する者は一人もいないのでしょうか!何たる悲しみ。私がこうして自ら真の食を作りだそうとしているというのに」
兵士「そうは言っても、苦情が出てるのは事実でして」
ネペンテス「あなた。わからない人ですね。ウィル王子の許可も取っているのですよ」
兵士「そうなのですが……せめて、見栄えだけでも……苦情の出ないようにしていただけると」
兵士はそう言い残して、私達の前から立ち去っていった。
ネペンテス「……これほどまでに理解されないとは、思いもしませんでした」
○○「そうですね……収穫祭だから、これくらいした方がきっと楽しいのに」
ネペンテス「おや……ふふっ、私の理解者は、もはやあなた様だけになってしまったようです」
○○「そ、そんなことはないですよ。きっと、楽しんでくれる人がいます」
また深くうなだれるネペンテスさんを、慌てて元気づける。
ネペンテス「しかしこのおばけカボチャハウスは、受け入れられない……私にこれ以上、何ができるというのでしょう。ああ、さっさと国へ帰り、我が国の美食を口にしたい……このままでは、飢えて渇いて、あなた様を……」
○○「っ……!」
ネペンテスさんが、熱のこもった瞳でねっとりと私を見つめる。
そのままゆっくりと私に両手を伸ばして……
○○「あ、あのっ、ネペンテスさん!」
ネペンテス「ああ……こんなにも魅惑的な香りを発するあなた様を、食べてしまいたいのです。それ以外にもう、私が満たされる方法はありません」
伸びてきたネペンテスさんの手が、私の身体に絡み、抱き寄せられる。
突然距離が近くなって……ひんやりとした手が私の身体を滑って……
○○「ネペンテスさん!いいことを思いつきました」
ネペンテス「……いいことなどありません」
○○「あります。このおばけカボチャハウスが気味が悪いと苦情が出るなら、いっそ、このままお化け屋敷にしてしまってはどうでしょうか?」
ネペンテス「お化け屋敷……?お化け屋敷ならぬ、お化けかぼちゃ屋敷……?」
私を抱き寄せていたネペンテスさんの手が、するすると離れていく。
そして……
ネペンテス「名案かもしれません」
ぽつりと、誰に言うでもなくつぶやいた。
それから私達は早速、お化けかぼちゃ屋敷の制作に取りかかり、もちろんこっそり食べられるしかけは残したままで、計画変更を行った。
(何とかなりそうで良かった)
こうして、大変ながらも迎えた、収穫祭当日…―。
日は傾いて、街を真っ赤な夕日が照らしている。
そんな中、私達は……
○○「あの……ネペンテスさん、もうお化けかぼちゃ屋敷、閉めちゃうんですか?」
お化けかぼちゃ屋敷は大盛況で、ネペンテスさんは、仮装した子供達に律儀にお菓子を配っていた。
そのネペンテスさん手作りのお菓子の美味しさがまた人を呼び、今も外から人が覗いている。
ネペンテス「皆にお菓子を配るのも、さすがにもう疲れました」
ネペンテスさんはすっかり疲れてしまったようで、お化けかぼちゃ屋敷を早々に終わらせてしまった。
ネペンテス「それよりもこうして……あなた様と、この部屋の甘い香りに、ゆったりと包まれている方が幸せです」
うっとりと目を細めて、ネペンテスさんは私の口にお菓子を放り込む。
○○「でも……あ、美味しい」
ネペンテスさんお手製のお菓子は、驚くほどに美味しい。
(これは、子ども達も欲しくなっちゃうね)
○○「本当に、美味しいです」
笑いかけると、彼は私にぐっと顔を寄せる。
ネペンテス「美味しそうなのは、あなた様のその……真っ赤な唇ですよ」
○○「……んっ」
ネペンテスさんが、お菓子で私の唇をなぞって遊び始める。
ネペンテス「ふふ……可愛い人です。一緒に過ごせば過ごすほど……熟れた香りが強くなる」
ネペンテスさんは妖艶にそう言って……
今度は私の唇に、ひんやりと心地よい指先を這わせたのだった…―。
おわり。