それは、○○様とおばけカボチャから脱出した後…-。
○○「……」
ネペンテス「大丈夫ですか?」
○○様は、私が唇を舐め回した後から、どうも顔色が優れない様子だった。
○○「……大丈夫です、早くおばけカボチャを見つけましょう……」
それなのに、○○様は街の者に迷惑をかけてはいけないと、おばけカボチャを確認しようと、カボチャが去った森へと来ていた。
(何とも……不思議なお方です)
(放っておけば、精霊の力が消費され、ただのカボチャに戻ると言ったのに)
○○「あ……」
ネペンテス「おっと……」
ふらりと倒れそうになる○○様の身体を、支えようとすると……
○○「……っ! だ、大丈夫です!」
手を払いのけられ、距離を置かれてしまった。
(これは……明らかに避けられていますね)
(心当たりは、あるといえばありますが)
○○「うっ……」
口を押さえ、○○様はその場にしゃがみ込んでしまう。
ネペンテス「大丈夫……ではない様子ですが」
○○「カボチャを食べ過ぎました……それに。 さっき街で、ネペンテスさんに……その……舐められてから……」
(私の香りにあてられましたかね)
これ以上歩くことすらできそうにもない○○様を見て、私は頭を悩ませた。
その時…-。
ネペンテス「おや……」
視線の先に、さきほど走っていったおばけカボチャが転がっていた。
ネペンテス「○○様、おばけカボチャです。もっとも、今はただのカボチャですが」
○○「よかった……もう動かないんですね」
○○様が、安心したように息を吐く。
ネペンテス「だから、言いましたでしょう?」
(本当に、不思議なお方です)
(美食のためならまだしも……他人のために、こんなにも労力を使って)
自然と、私の手が○○様に伸びる。
○○「……っ!」
やはりびくっと体を震わせる○○様を、無理やり私は抱き上げた。
○○「ネ、ネペンテスさん……っ!」
ネペンテス「無理をしてはいけません」
○○様の髪から放たれる、かぐわしい香りが私の鼻を掠める。
(ああ……やはり至高の匂いです)
(ですが……)
ネペンテス「さきほどは、申し訳ありませんでした。 あなた様というデザートもいただいたことですし……食後の運動をさせてください」
○○様を抱え、私は街へと歩き出す。
○○「ネペンテスさん……甘い……匂いが……」
○○様は、うっとりとした様子で私の胸に顔を預けた。
(食べたい。食べてしまいたい。このまま……全部)
湧き上がる欲望を抑えながら、私はただ街を目指す。
○○「……」
いつの間にか○○様は、私の腕の中で眠ってしまったようだ。
(無防備な方です。さきほどまでは私を避けていたのに……)
(このままでは、他の誰かに先に食べられてしまうかもしれないじゃないですか)
ため息をひとつ吐いて、私は○○様の額に、印を刻むように口づける。
甘い、どこまでも甘い味が、私の舌を震わせた…-。
おわり。