パートナーの方とフロアに戻ると、音楽に合わせてワルツを踊り始めた。
たどたどしい私のダンスに、彼は優しく付き合ってくれる。
(でも……)
私は踊りながらも、グウィードさんの姿を探してしまう。
フロアの隅で、彼が壁に背を預けて立っているのが見えた。
(やっぱり私は……!)
込み上げてくる想いを抑えきれず、私は足を止めた。
パートナー「どうしましたか?」
○○「すみません……あの、私…―!」
パートナーの方に頭を下げると、私はその場を走り去った。
招待客「うわっ、何!?」
招待客「ダンスの邪魔よ!」
○○「すみません!」
周りの人に謝りながら、彼がいる場所を目指す。
(私は……グウィードさんと踊りたい!)
自分でも驚くほど夢中になって、私は彼の姿を求めた。
けれど…―。
○○「あ……っ!」
私はバランスを崩して倒れてしまいそうになった。
○○「っ……!」
転びそうになった私を、後ろから力強い腕が抱き上げてくれた。
??「……!」
抱き上げられた拍子に、腕に何かが当たり、音を立てて落ちた。
(え……仮面? これって)
グウィード「子猫ちゃん」
その声で、私を抱き上げてくれた人物が誰だかわかった。
甘い花の香りが、鼻腔をくすぐる。
○○「グウィードさん……」
そこには、仮面をつけていない素顔の彼が立っていた。
(これが……グウィードさんの素顔?)
グウィード「無茶なことをするね、子猫ちゃん◆ そんなに急いでどこに行くのかな?」
彼の静かな眼差しに、私は自分のしてしまったことに気がついた。
○○「ごめんなさい、私……!」
パートナー「いったい、どうしたんですか?」
パートナーの方もやって来て、私はどうしていいのかわからなくなる。
グウィードさんは私を優しく降ろした後、落ちていた仮面を拾い、つけ直した。
(言わなきゃ……私はグウィードさんと)
グウィード「……」
○○「あの、私……!」
パートナーの方に自分の気持ちを告げようとした、その時…―。
グウィード「蝶は移り気だ……君の蝶は、別の花の元へ行きたいらしい◆」
グウィードさんの言葉に導かれるように、パートナーの方から蝶が飛び立つ。
その蝶はすぐさま別の女性の方へと飛んで行ってしまった。
パートナー「失礼」
パートナーの方は軽くお辞儀をすると、その場から立ち去って行った。
○○「どうして……?」
(蝶が飛んで行った?)
アナウンス「さあ、蝶に従ってダンスのパートナーを交代してください」
○○「交代?」
グウィード「……もとからダンスのパートナーは交代していくんだ◆」
○○「そうだったんですか……」
(そう言えば……)
ー----
グウィード『皆様にとまった左右の羽の模様が違う蝶。その蝶と同じ羽を持つ人がこの会場におります♠ そのお相手が、今宵、あなたの最初のダンスのパートナー◆』
ー----
(最初のパートナー、って言ってたっけ……)
グウィードさんの説明を思い出して、恥ずかしさで顔がほてってくる。
○○「すみません、私……ちゃんと聞いていなかったみたいで」
グウィード「いいんだ◆ 君が来なければ、僕が行くところだった◆」
○○「え……?」
彼は、私の頬を優しく撫でる。
グウィード「胸がざわめいて仕方なかった。 これ以上、子猫ちゃんが他の男と踊るのを見るのは耐えられない」
○○「グウィードさん……。 私も、踊るならグウィードさんがいいです。 それが言いたくて、私…―」
グウィード「子猫ちゃん……。 どんなに離れても、惹かれることは避けられなかったみたいだ◆」
○○「え?」
グウィード「いや、こちらの話。ならこのまま行こうか、二人だけでいられる場所へ♪」
○○「っ……!」
グウィードさんは、私の体を抱き上げた。
グウィード「パーティはもうお終い。君とゆっくり話がしたい◆ 君はどうだろうか? ○○、返事は?」
私を見つめる彼の眼差しは、どこまでも優しくて……
私は自然に、彼の首に腕を回した。
○○「はい……!」
グウィード「いい返事だね◆」
そう言って笑うと、彼は私を抱き上げたまま窓から夜空へ飛び出して行く。
その姿は、まるで蝶のようで…―。
(綺麗……)
こぼれ落ちそうなほど輝く星の下、私達は空を飛び続ける。
その中で一対の蝶が、鮮やかな羽をはためかせ、私達の横をすり抜けていった…―。
おわり。