儀式を受けるため、オレ達は水鏡を覗く列に並ぶ。
(さすがに緊張してきたな……)
神殿に入ってから、オレは内心、落ち着かないでいた。
オレは奥に控えている水鏡へと視線を向ける。
(けど、まさかこんなことになるとは思わなかったぜ)
(そりゃ、○○のことは気になってたけどよ)
―――――
○○『こ、この人が運命の相手かどうか見て欲しくて、どうしたらいいかと中をうかがっていたんです……!』
―――――
(だからって、水鏡を一緒に見ることになるなんてな……)
(ったくよぉ……○○のことが好きだって自覚する前だったっつーの!)
先に水鏡を覗いた奴らが、運命の相手が映ったとか、映ってないとかで一喜一憂している。
(運命の相手か……)
(もし、お互い映んなかったら、運命の相手じゃねーってことだ。○○とオレが……)
(いや、今さらそんなことで怖気づくんじゃねぇぞ、オレ!)
(映っても映んなくても……気持ちは変わんねぇだろ!)
そんなことを考えていたら、服を引っ張られた。
見ると、○○がオレの服を掴んでいた。
(なんだ、どうしたんだ? ……かわいいじゃねえか……じゃなくて!)
○○の顔が、どことなく白くなっている気がした。
(こいつ・・・・不安になってんじゃねーのか?)
優しい○○が、オレをかばうために無理をしていることを今さらながらに痛感する。
(あー……くそ)
澄快「そんなとこ掴んでいないで、こうしろよ」
○○の手を掴んで、握り直す。
その手は指先まで冷たくなっていた。
澄快「なんだよ! 冷たくなってるじゃねーか!」
○○「少し緊張して……」
(○○……)
か細い言葉が、オレの心を奮い立たせた。
澄快「大丈夫だ。なんかあってもさ、オレがついてるだろ?」
○○「澄快……」
(何やってんだオレは。自分のことで緊張してる場合じゃねえだろ)
(今は○○が不安にならねーようにすることが大事なんじゃねーのか)
澄快「……真琴がいたら、『だから余計に不安なんだよ』とか言われそうだけどさ」
(けど、だからって傍を離れるなんて真似はできねぇ)
オレは必死で、○○にかける言葉を探す。
澄快「ほら、なんつーの? 占いとかそういうもんだと思えば気が楽だろ?」
○○「占いって……」
澄快「女ってそういうのが好きなんじゃねーのか?」
なんの励ましになってるのかはわからなかったが、そう言うと……
○○「そうだね」
○○はようやく笑顔を見せてくれた。
(よかった。ちょっとは役に立ったか?)
澄快「だろ? まぁ、オレも緊張してんだけどな」
○○「え?」
そこまで言って、オレは誤魔化すように○○に笑う。
(やべぇ、また余計なことを言うところだった)
オレ達の番が来て、○○と手を繋いだまま水鏡の方へと歩き出す。
(いよいよだ。心臓がすんげー鳴ってやがる)
○○の顔がまた強張った気がした。
(大丈夫だ。オレが隣にいる)
その想いを込めて、○○の手を強く握る。
(……この水鏡を見る前に、どうしても伝えたいことがあるんだよ)
いつの間にかでっかくなってた○○への想いを、水鏡なんかに振り回されることが、格好いいとは思えなかった。
(オレから告白なんて、○○には迷惑かもしれねえけどな)
(でも、オレは、オレらしくビシッと告白して振られてやる!)
(……振られる前提で考えてんのが、またビビリなんだけどな)
アフロスの神官「それでは、水鏡を…―」
神官の声が聞こえて、オレは一度唾を飲み込む。
そして…―。
澄快「ちょ……ちょっと待ってくれ!」
オレは、この儀式をぶち壊すぐらいの勢いで声を上げたのだった…―。
おわり。