儀式は、静かに厳かに進行していく…―。
ついに私達の番になり、澄快に手を引かれ水鏡の前に立った。
(これを二人で覗いたら、運命の相手かどうかがわかる……?)
彼の手が『大丈夫だ』とでも言うように、私の手を強く握りしめた。
けれど反対に、私の胸にまた不安が押し寄せてくる。
(澄快が映らなかったら、運命の相手じゃないってこと? それって……)
(映って欲しい……そう思うこの気持ちは)
その答えに行き着く前に、私は前を見据えた。
(しっかりしないと)
(成り行きとはいえ……水鏡を見たいって言ったのは私なんだから)
波立つ私の心とは裏腹に、水面は静かに祭壇の中に満ちていた。
アフロスの神官「それでは、水鏡を…―」
その時…―。
澄快「ちょ……ちょっと待ってくれ!」
突然、澄快の大きな声が神殿内に響き渡った。
○○「澄快、どうしたの?」
澄快「水鏡を見る前に、○○に言っておきたいことがある!」
○○「え……?」
澄快はこちらへ向き直ると、私の両肩を掴んだ。
彼の真剣な眼差しに見つめられ、胸が大きく音を立てる。
澄快「○○!」
○○「は……はい……」
澄快「オマエが好きだ」
○○「っ……!」
彼の思いがけない言葉に、私は息を呑んだ。
(澄快が……私を?)
周囲を人々のどよめく声が聞こえる。
けれど、その声も気にならないほど、私の鼓動は高鳴っていって…―。
澄快「ここでオマエと再会して、成り行きで水鏡を見ることになっちまったけど。 そのお陰で、覚悟が決まった。オマエにオレの気持ちを全部ぶちまけるって覚悟がな!」
○○「澄快……」
澄快「運命とか……水鏡で結果がわかるとしても、その前にどうしてもこれだけはな」
澄快は水鏡を一瞥すると、私の方へ視線を戻した。
澄快「もしもだ。もしもオレがオマエの運命の相手だったとして…―。 それがわかったから告白するなんて真似はしたくねーんだよ」
○○「澄快……」
澄快「運命に関係なく、オレはオマエが好きだ。 水鏡に映んなかったとしても……好きだ」
彼はニッと、口元に笑みを浮かべた。
澄快「変わるわけねーよ。オレの気持ちは、水鏡で左右なんかされねぇ。 もし運命ってのがあるんなら、こうやってまた巡り合えたことを言うんじゃねーのかって。 オレはそう思う」
(そうだ……私達はここで再会したんだ)
澄快と再会してから、私の視線は彼ばかりを追ってしまっていた。
(今ならわかる。私は澄快のことが……)
○○「私も……澄快が映ってくれたらいいって思った」
澄快「○○……本当か?」
○○「あ……! 映らなくても私は澄快が…―」
言い終わる前に、澄快が私を抱きしめる。
○○「好き……」
私の言葉は、彼の胸の中に消えていった。
周囲の人々が私達に向けて祝福の拍手を贈る。
澄快「なんだよ! まじで嬉しいじゃねーか!」
彼は私を離すと、満面の笑みを浮かべた。
○○「うん……!」
神殿の中が喜びで包まれる。
その時…―。
アフロスの神官「コホン……」
笑い合う私達の横で、神官様が咳払いをした。
(あ……そうだった……)
澄快「そんじゃ、儀式の再開よろしくな!」
澄快は私の手を握ると、水鏡に向き直った。
彼に促され、神官様が儀式を再開する。
アフロスの神官「それでは、二人とも水鏡の前へ」
私達は顔を見合わせると、一歩足を踏み出した。
水鏡がゆっくりと波紋を描いたその時…―。
澄快「水鏡にお互い映んなかったら、このままどっかに逃げちまうか?」
澄快が私の耳元に顔を寄せ、冗談っぽく囁いた。
○○「に、逃げるって……」
(そんなことしたら……)
澄快「じゃあ、なんだ? せっかく両思いになったってのに…-。 水鏡に映らなかったら、本当の運命の相手でも探すのか?」
○○「そんなことしない!」
澄快「なら決まりだな!」
澄快が私を見つめ、口の端を持ち上げる。
いたずらを思いついたようなその笑顔につられて、私も笑ってしまう。
アフロスの神官「二人に祝福があらんことを」
(あ……)
神官様の言葉が聞こえ、私は水鏡へと視線を戻す。
そこには、笑い合う私達の笑顔が映っていた…―。
おわり。