幻惑の国・ロトリア 宙の月…-。
長閑な午後に、人々の賑やかな笑い声が響く。
(収穫祭か……楽しみだな)
花の精の国・ヴァラスティンのネペンテス王子から収穫祭に誘われ、私はこの国を訪れていた。
(待ち合わせはこの辺りのはずだよね?)
賑わう街中でネペンテスさんから届いた招待状を確認していると…-。
??「ああ、何とも美味しそうな香りが、こちらから……」
○○「……!」
背後から突然囁かれ、びくりと身体が震える。
慌てて振り返ると……
○○「ネペンテスさん」
ネペンテス「懐かしく、かぐわしい匂いに吸い寄せられてしまいました」
ウツボカズラの精であるネペンテスさんは、少し変わった趣向を持っている……
最高の美食を求めていて、とにかく何でも口にし、その味を確かめてみるという性分らしい。
美食を求め城を抜け出し、食あたりで行き倒れていたこともあった。
ネペンテス「あなた様は相変わらず、熟す前の芳醇な香りに包まれていらっしゃる……」
再会して早々、ネペンテスさんは私の腰を強い力で抱き寄せたと思うと、私の首筋に、ねっとりと舌を這わせた。
○○「っ……ね、ネペンテスさん……!」
ネペンテスさんから、甘く蕩けるような香りが鼻腔へ入り込み、身体からふわりと力が抜けていく。
ネペンテス「おや、そろそろ食べ頃に……」
○○「あ、あのっ」
鼻先を首筋にこすりつけられて、くすぐったくて身をよじった。
彼は微笑みながら身体を離してくれる。
ネペンテス「私は一足先に収穫祭のロトリアを楽しんでいました。 ご一緒に、いかがですか?」
○○「……は、はい」
(相変わらず、変わった人だな)
一歩退き、軽く首を傾げて微笑む姿は、紳士的にも見えたけれど……
彼の瞳の中には、ただならぬものが潜んでいるように感じられた…-。