神官様が去った後、私は顔を上げられずに、澄快の腕に抱きついていた。
―――――
○○『こ、この人が運命の相手かどうか見て欲しくて、どうしたらいいかと中をうかがっていたんです……!』
―――――
(どうしよう……私、なんてことを言ってしまったんだろう)
澄快「おい」
心なしか澄快の声が低く感じて、気まずさが増していく。
○○「はい……」
(もしかして、怒っているんじゃ……?)
澄快「もういなくなったから離していいぞ」
○○「あ……ご、ごめん」
私は慌てて澄快の腕を離した。
澄快「謝んなよ。それよりいいのか? あんなこと言って」
彼は私から顔を背けると、新しい煙草を取り出す。
○○「ついとっさに……」
澄快「ったく、無茶しやがって、オマエは」
彼の笑いを含んだ声に、私はホッと息を吐く。
○○「変なことになってごめん」
澄快「あ? いや、もともとはオレがオマエを巻き込んだんじゃねーか。 まぁ、神官にああ言っちまった手前、行かねーわけにはいかねーが」
○○「そうだよね……本当にごめんなさい!」
(結局、澄快の迷惑にしかなってない……)
申し訳なさから、彼に向けて頭を下げる。
澄快「だからいいって言ってんだろ! オマエとなら別に嫌でもねーよ!」
○○「え?」
澄快「うおっ! 口が滑った!」
彼はハッと口を閉じると、困ったように眉を寄せた。
澄快「そっ、それより! オマエはいいのか?」
○○「え?」
澄快「ほら、運命の相手っての……わかっちまうんだぞ?」
○○「そう言われると、ちょっとだけ気になる……かな」
澄快「へぇ、やっぱそういうもんなのか?」
自分の感情をうまく説明できず、私は胸の前で手を握る。
○○「澄快は平気なんだ?」
澄快「オレ自体はもともと興味あったわけじゃねーし……」
腕を組んで考え出したかと思うと、ふと彼の表情から明るさが消えた。
(どうしたんだろう?)
澄快は私をじっと見つめて、目を細めた。
澄快「けど今は……ちょっと怖ぇかもな」
○○「え? どうして?」
澄快「どうしてって、まさかオマエと水鏡を覗くことになるとは思わなかったからな」
○○「え……」
澄快「もし二人で水鏡を覗いて、オマエが……」
○○「私が?」
澄快「いや、そのオマエが……」
それ以上言うのをためらっているのか、彼の唇が震えた。
(何を言おうとしているんだろう……)
澄快の視線があまりにもまっすぐで……
私の鼓動が知らず知らずのうちに速くなっていく。
けれど…―。
澄快「やっぱいい! ま、何があっても安心しろ。オレが守ってやるから。 オレもこの際だ。覚悟決めるしかねぇな!」
○○「澄快?」
何か誤魔化すように言うと、彼は先に歩き出す。
澄快「宿どこだ? 送っていってやる。なんだったら、飯にでも行くか?」
○○「あ、うん……」
夕焼けに照らされて、澄快の背中が優しい色を帯びる。
(なんて言おうとしてたんだろう? 最後まで聞きたかったな……)
彼の背中を見つめながら、ほんの少し胸が締めつけられるような苦しさを覚えた…―。