翌日の夕方……私達は改めて神殿の傍へとやって来た。
神殿の裏に回ると、私達は窓からこっそり中を覗く。
○○「……なんで、こんなところから?」
澄快「そりゃ……オレは招待も受けてねえし、忍び込んでるようなモンだからな。 水鏡は相手がいねえと見せてくれねえし、手続きもできなかったんだよ」
(澄快の相手……)
その言葉に、一瞬だけ変な心地がしたけれど、すぐにその感覚を振り払った。
澄快「それより、本当にオレを手伝う気か?」
○○「うん。もしそんな不正が行われていたら、その人達が可哀相だから」
(それに、澄快は他の人が不幸にならないように、ここまで来たんだから)
(私も、何か手伝いたい)
澄快「なんでオマエの方が熱くなってんだ?」
○○「え? そ、それは…―」
言い淀むと、澄快が照れくさそうに笑った。
澄快「ったく……オマエって、まっすぐだよな。そういうところがいいんだけど」
彼は私の頭の上に手を乗せると、優しく瞳を細めた。
○○「いい?」
澄快「なっ、なんでもねえよ! んでも、オレの言うこと聞いて動けよ? 絶対無茶なことはすんなよ?」
○○「うん、わかった」
澄快「どうだかなぁ。まぁ、オレがしっかり見ててやるしかねーか」
彼の楽しそうな笑顔を前に、私の顔が熱くなっていく。
(どうしたんだろう……)
心を落ち着かせようと、神殿に視線を戻す。
中では、水鏡で互いの顔が映ったのか、恋人達が嬉しそうに手を取り合っていた。
(運命の人が、好きな人だったら嬉しいだろうな……)
二人の笑い合う顔を見つめながら、ふとそんなことを考えていると…―。
澄快「どうやら、ちゃんと機能してるようじゃねーか」
吐息まじりに耳元で囁かれて、思わずびくりと体が跳ねた。
○○「そ……そうだね」
澄快「どうした?」
○○「幸せそうだと思って……」
澄快「そうだな。おーおー、幸せそうに笑って。うらやましいこった。 ま、確認もできたし、これで一件落着だな」
○○「え? もういいの?」
澄快「噂だけならそれでいいんだ。よかったな、あいつらいい笑顔じゃねーか」
澄快の言った通り、二人は仲睦まじく手を繋ぎ神殿を出ていく。
○○「そうだね」
澄快「だろ? 確認できてすっきりした」
温かい気持ちを胸に、私達は窓から体を離した。
けれどその時…―。
アフロスの神官「そこで何をしている!?」
声の方を振り返ると、神官様が険しい顔で私達を睨みつけていた。
澄快「やべぇ!」
アフロスの神官「ここは神聖な場所ですよ。 このような、影から覗き見などして……いったいどういうおつもりですか!? 最近、神聖な水鏡を悪用しようとする輩の噂があるといいます。もしや……」
○○「ち、違います……!」
(どうしよう……下手に説明すると、余計に疑われてしまうかも……!)
声を上げた私を見て、神官様が顔つきを変えた。
アフロスの神官「あなたは……トロイメアの姫?」
○○「! はい……」
神官様の目が、信じられない物を見るかのように見開かれる。
その視線から逃がすように、澄快が私を背に隠した。
(澄快……?)
澄快「オレがコイツを……」
神官様の厳しい視線が、澄快へ注がれる。
(そんなこと言ったら澄快が……!)
○○「あの、これは……!」
我慢できずに、私は大声を出していた。
神官様と澄快の視線が、同時に私に向けられる。
○○「あの……覗き見のようなことをして、申し訳ありませんでした」
まだ考えがまとまらないまま、澄快の腕に抱きつく。
○○「こ、この人が運命の相手かどうか見て欲しくて、どうしたらいいかと中をうかがっていたんです……!」
澄快「なっ!?」
彼の声が驚きで裏返る。
アフロスの神官「だからと言ってなぜこのようなことを……」
○○「ま……迷ってここに着いてしまって……」
神官様に笑いかけながら、私は彼の腕をきつく抱きしめる。
アフロスの神官「そうでしたか……」
私と澄快の顔を順に見ると、神官様は渋々納得したように頷いた。
アフロスの神官「儀式を行いたいのであれば、明日また来てください」
○○「わかりました……」
神官様が去り、私と澄快だけがその場に取り残される。
澄快「おい」
○○「……」
彼がどんな表情をしているのか知るのが怖くて、私は彼の腕に抱きついたまま、顔を上げれなかった…-。