第2話 彼の理由

澄快さんに連れられて、私は街の外までやって来た。

人気のない森の中、踏んだ小枝が乾いた音を立てる。

澄快「ここなら誰もいないか? っと! ……悪かったな」

彼は私から慌てて離れると、決まり悪そうに手袋をはめ直す。

澄快「まさかオマエに会うとは思わなかったぜ。 ってか、招待も受けてねえオレがここにいるのも変なのか……」

○○「え……?」

澄快「悪かったな。驚いてつい焦っちまった」

彼は申し訳なさそうに眉尻を下げて、私を見つめる。

(さっきとは違う、私の知っている澄快さんだ)

○○「大丈夫です。でも、澄快さんはどうして儀式に?」

澄快「澄快でいい。堅っ苦しいのは苦手なんだよ」

○○「えっと……澄快はどうして儀式に?」

澄快「いや、ちょっと噂があってそれで…―」

ふと何かに気づいたのか、彼は言いかけて途中でやめてしまった。

○○「噂……?」

続きが気になって、澄快に聞き返すけれど、彼はためらっているのか、煙草を取り出し口にくわえた。

(そこまで言われると、逆に気になるな……)

澄快「なっ……そんな目でオレを見るなよ! 話したせいで、オマエが危険な目に遭ったら悪いだろ」

言い終えると、彼はばつが悪そうに頭を掻く。

その耳が、なんだか赤く染まっているように見えた。

○○「危険な目に遭うようなこと?」

(もしかして、何か危ないことをしようとしてるんじゃ……)

私の不安を感じ取ったのか、彼は慌てて口を開いた。

澄快「いいからオマエは気にしなくていいんだ」

○○「でも……」

澄快「もしもの話だ。ただの噂かもしれねーし。 だってそうだろ? 儀式で不正が行われてるかもしれないなんて」

(あれ……?)

澄快「!」

澄快の手から煙草が地面に落ちた。

澄快「……今、オレ言っちまったか?」

○○「たぶん……」

澄快「あああ~! なんでオレは……!」

澄快は頭を掻きむしると、脱力したように腕を垂らす。

○○「なんだか……ごめんね」

澄快「いやいいんだ! 言っちまったなら仕方ねぇ!」

観念したようにため息を吐くと、彼は話し始めた。

澄快「真琴が……オレが世話してる奴が言ってたんだよ。 この国の水鏡ってのは、不思議な力があるらしくて。 二人で水鏡を覗き込むと、運命の相手は映って、運命の相手じゃないと映んねーんだと」

○○「運命の相手が……すごい……」

澄快「まぁな。んでも、それを不正に操作してインチキの運命の相手を映してるっつー噂があんだよ」

○○「そんな……なんのために?」

澄快「ほらあれだ。そういうの操作できたら政略結婚とか、そういうのも簡単にできんだろ」

○○「あ……」

澄快「大事な儀式なんだろ? なんつーか、それで好きなヤツと一緒になれなかったら可哀相じゃねーか」

彼が照れくさそうに、頬を掻く。

(確かに、本当にそんなことが起きていたら、ひどい……)

○○「澄快、私も手伝う……!」

思わず、私は澄快の両手を掴んだ。

澄快「はぁ!?」

骨ばった大きな手は、彼の心と同じように温かかった…―。

 

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