澄快さんに連れられて、私は街の外までやって来た。
人気のない森の中、踏んだ小枝が乾いた音を立てる。
澄快「ここなら誰もいないか? っと! ……悪かったな」
彼は私から慌てて離れると、決まり悪そうに手袋をはめ直す。
澄快「まさかオマエに会うとは思わなかったぜ。 ってか、招待も受けてねえオレがここにいるのも変なのか……」
○○「え……?」
澄快「悪かったな。驚いてつい焦っちまった」
彼は申し訳なさそうに眉尻を下げて、私を見つめる。
(さっきとは違う、私の知っている澄快さんだ)
○○「大丈夫です。でも、澄快さんはどうして儀式に?」
澄快「澄快でいい。堅っ苦しいのは苦手なんだよ」
○○「えっと……澄快はどうして儀式に?」
澄快「いや、ちょっと噂があってそれで…―」
ふと何かに気づいたのか、彼は言いかけて途中でやめてしまった。
○○「噂……?」
続きが気になって、澄快に聞き返すけれど、彼はためらっているのか、煙草を取り出し口にくわえた。
(そこまで言われると、逆に気になるな……)
澄快「なっ……そんな目でオレを見るなよ! 話したせいで、オマエが危険な目に遭ったら悪いだろ」
言い終えると、彼はばつが悪そうに頭を掻く。
その耳が、なんだか赤く染まっているように見えた。
○○「危険な目に遭うようなこと?」
(もしかして、何か危ないことをしようとしてるんじゃ……)
私の不安を感じ取ったのか、彼は慌てて口を開いた。
澄快「いいからオマエは気にしなくていいんだ」
○○「でも……」
澄快「もしもの話だ。ただの噂かもしれねーし。 だってそうだろ? 儀式で不正が行われてるかもしれないなんて」
(あれ……?)
澄快「!」
澄快の手から煙草が地面に落ちた。
澄快「……今、オレ言っちまったか?」
○○「たぶん……」
澄快「あああ~! なんでオレは……!」
澄快は頭を掻きむしると、脱力したように腕を垂らす。
○○「なんだか……ごめんね」
澄快「いやいいんだ! 言っちまったなら仕方ねぇ!」
観念したようにため息を吐くと、彼は話し始めた。
澄快「真琴が……オレが世話してる奴が言ってたんだよ。 この国の水鏡ってのは、不思議な力があるらしくて。 二人で水鏡を覗き込むと、運命の相手は映って、運命の相手じゃないと映んねーんだと」
○○「運命の相手が……すごい……」
澄快「まぁな。んでも、それを不正に操作してインチキの運命の相手を映してるっつー噂があんだよ」
○○「そんな……なんのために?」
澄快「ほらあれだ。そういうの操作できたら政略結婚とか、そういうのも簡単にできんだろ」
○○「あ……」
澄快「大事な儀式なんだろ? なんつーか、それで好きなヤツと一緒になれなかったら可哀相じゃねーか」
彼が照れくさそうに、頬を掻く。
(確かに、本当にそんなことが起きていたら、ひどい……)
○○「澄快、私も手伝う……!」
思わず、私は澄快の両手を掴んだ。
澄快「はぁ!?」
骨ばった大きな手は、彼の心と同じように温かかった…―。