月6話 言えないこと

飛鳥さんと別れた後…-。

もやもやとする気持ちを紛らわすために、私は市場にやってきていた。

(嫉妬……か。飛鳥さんは成功だって言ってたけど)

―――――

藤目『……貴方の運命の人はその方なのでしょう。ならば、それを邪魔するわけにはいきませんね。 人の恋路を邪魔するものはなんとやら……と言いますからね』

―――――

(藤目さんに……嫉妬してる様子はなかったよね)

軋む胸を押さえながら、私は彼に言われたことを思い出していた。

(そういえば藤目さん、オムライスが食べたいって言ってた)

彼に会いたい気持ちが募り、私はそのことを口実に新鮮な卵を購入する。

そして、藤目さんが宿泊している部屋へと向かったのだった…―。

部屋の扉をノックすると、ゆっくりと扉が開き、藤目さんは顔を覗かせた。

けれど…―。

藤目「……どうぞ」

(藤目さん……?)

儀式の前に見せてくれた、穏やかな木漏れ日のような笑顔はそこになかった。

暗い顔をした藤目さんに促され、私は中へと入った…―。

藤目さんの部屋には、原稿が散らばり、インクの匂いが漂っていた。

(原稿を書いていたのかな……邪魔をしてしまったんじゃ)

○○「あの…―」

藤目さんを振り返った瞬間…―。

(え…―)

体が、背後から強く抱きしめられた。

○○「ふ……藤目さん?」

痛いほどに抱きしめられ、胸が早鐘を打ち始める。

藤目「……楽しかったですか?」

○○「え……」

藤目「あの男といる時の貴方は、とても楽しそうな顔をしていた」

(藤目さん、見ていたんだ……!)

藤目「何を話していたんですか?」

○○「……」

(飛鳥さんのことを思うと、本当のことは言えない……)

藤目「私に言えないことなんですね」

藤目さんの瞳に、暗い色が差し込んだ…―。

 

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