藤目さんは無言のまま、私を部屋の中へと促す。
○○「・・・・・・!」
部屋の中には書きかけの原稿が散らばっていた。
(藤目さん、原稿の執筆中だったんだ・・・・・・お邪魔だったかもしれない)
藤目「・・・・・・」
藤目さんはずっと黙ったまま、扉の前に立ちつくしている。
○○「あの・・・・・・オムライス食べますか?お腹がすいてるんじゃないかと思って」
藤目「・・・・・・」
藤目さんは考え込むようにうつむいてから、小さく首を縦に振った。
○○「すぐに作りますね」
けれど台所へと向かおうとすると、藤目さんがさっと私の前に立ちはだかって・・・・・・
○○「藤目さん・・・・・・!?」
そのまま追い詰められ、壁と彼の腕に閉じ込められてしまう。
(怖い・・・・・・)
藤目さんは息を一つ吸うと、私をまっすぐに見据えた。
藤目「あの男と、何を話してきたんですか?」
○○「それは・・・・・・」
藤目さんの剣幕に言い淀んでいると、彼は唇をきゅっと噛みしめた。
藤目「・・・・・・私に話せないことなのですか?」
その声はとても低く、明らかに不快を表しているものだった。
○○「あ、あの・・・・・・」
藤目「・・・・・・ならば、無理して話すことはありません」
藤目さんは背を向けて、机へと向かってしまった。
(藤目さん、怒ってる・・・・・・)
(本当に・・・・・・嫉妬してくれてるの?)
そのことが嬉しいのに、今こうして藤目さんが怖い顔をしていることがどうしようもなく哀しい。
(でも、藤目さんが書き上げるまでは、本当のことを言うわけにはいかない・・・・・・)
飛鳥さんの切実な表情と言葉が、私を葛藤させる。
(・・・・・・オムライスを作ったら、ここから去ろう)
もどかしい気持ちを抱えながら、私を口を閉ざしたのだった・・・-。
・・・
・・・・・・
○○「藤目さん、オムライスができました」
藤目「・・・・・・」
藤目さんは笑顔を見せず、オムライスをただじっと見つめている。
藤目「――しょう」
○○「え?」
藤目「ケチャップのハートはかわいらしいのに・・・・・・なぜ、嬉しくないのでしょう」
その冷たい声が、ますます私の心を苦しくさせた。
藤目「・・・・・・いただきます」
藤目さんは黙々とオムライスを食べ始める。
温かなオムライスの匂いが、私の心を切なく締めつけた・・・-。
・・・
・・・・・・
オムライスを食べ終わると、藤目さんはすぐに机へと向かった。
藤目「・・・・・・っ」
いいアイデアが浮かばないのか、時折苦しそうに顔を歪めている。
(もう・・・・・・帰ろう)
音を立てないように、私はそっと部屋を出て行くことにした。
けれど、その時・・・-。
藤目「待ってください」
椅子から立ち上がった藤目さんに、強く手を引かれる。
藤目「やはり、私は貴方があの男と何を話していたのか気になります。 気になってしまい、執筆が進まないのです・・・・・・」
(藤目さん・・・・・・)
○○「あの・・・・・・」
耐え切れず本当のことを話そうとした瞬間、飛鳥さんの言葉が脳裏をよぎった。
ー----
飛鳥『藤目さんの新作を楽しみにしている人はたくさんいます。私だってその一人です。 ・・・・・・先生にもあなたにも申し訳ありませんが、私は作品のためなら、なんでもします』
ー----
(まだ、言ったら駄目だ・・・・・・)
○○「・・・・・・言えません」
私は、必死の思いで彼にそう告げた。
藤目「・・・・・・!」
彼の私の腕を掴む力が、ますます強くなる。
○○「・・・・・・っ」
痛みに顔を歪めた瞬間、藤目さんがはっとした表情をして、私の手を放す。
藤目「・・・・・・すまない」
そうつぶやくと、再び藤目さんは鬼気迫る表情で机へと向かったのだった・・・-。