飛鳥さんの大きな声が、神殿に響き渡る・・・-。
飛鳥「おお・・・・・・! 私の運命の相手はあなたでしたか!!」
○○「!?」
けれど・・・-。
(どういうこと・・・・・・?)
水鏡には何も映っていなかった。
いくら見つめても、ただゆらゆらと水面が揺れるばかりで・・・-。
○○「あの・・・-!」
すると、飛鳥さんが藤目さんに見えないように、唇に人差し指をあてた。
(え・・・・・・?)
何がなんだかわからずに、後ろにいる藤目さんを振り返ろうとすると・・・-。
飛鳥「・・・・・・どうか、話を合わせてください。お願いします」
懇願するようにそう言われ、私は何も言えなくなってしまった。
○○「・・・・・・」
(何か・・・・・・事情が?)
藤目「・・・・・・○○さん」
藤目さんを見ると、険しい表情で飛鳥さんのことを見つめていた。
藤目「水鏡に・・・・・・○○さんとその方の姿が映っていたのでしょうか?」
(違う・・・・・・映ってなんかないけど)
飛鳥さんは泣きそうな表情になり、私に訴えかけてくる。
○○「そう、です・・・・・・」
藤目「・・・・・・っ・・・・・・」
藤目さんは何かを言いかけて、口を閉ざしてしまった。
飛鳥「それでは藤目王子、失礼いたします。行きましょう、私の運命の人よ」
飛鳥さんは私の肩を抱き寄せると、強引に歩き始めてしまう。
○○「あ・・・・・・」
藤目さんはじっとこちらを見たまま、その場に立ち尽くしていたけれど・・・-。
藤目「・・・・・・貴方の運命の人はその方なのでしょう。ならば、それを邪魔するわけにはいきませんね。 人の恋路を邪魔するものはなんとやらと・・・・・・言いますからね」
笑顔を浮かべた後、私を拒絶するように背を向けてしまった。
(藤目さん・・・・・・?)
呆然とする私の耳元に、飛鳥さんがそっと口を寄せる。
飛鳥「強引なことをして申し訳ありません、ついてきてください」
○○「でも・・・・・・!?」
飛鳥「お願いします・・・・・・藤目先生のためなのです」
(先生・・・・・・?)
痛む胸を押さえながらも、私は飛鳥さんに言われるままについて行った・・・-。
・・・
・・・・・・
街まで出ると、飛鳥さんは周囲を見回し、私の肩から手を放した。
飛鳥「ここまで来たら、大丈夫ですね・・・・・・強引なことをして申し訳ありませんでした」
飛鳥さんは深々と私に頭を下げる。
○○「あの、いったいこれはどういうことなんですか?」
飛鳥「私は、出版社のアシスタントをしているものです」
そう言って、飛鳥さんは名刺を私に丁寧に手渡した。
(アシスタント・・・・・・だからさっき、先生って)
○○「出版社の方が、どうしてこのようなことを・・・・・・?」
飛鳥「実は・・・・・・。 先生の次回作の締め切りが大幅に遅れております。実は、あることを書くことに苦戦していまして・・・・・・」
○○「あること?」
飛鳥「嫉妬の表現です。どうしてもそれだけ、いくら取材をしても書けないようで・・・・・・」
(そういえば・・・・・・)
ー----
藤目『恋人達を見ていると、想像力が掻き立てられますね。愛は、やはり幸福で温かなものだ。 やはり私は、愛を知らない恋愛小説家です』
ー----
藤目さんの言葉が脳裏をよぎる。
(そうだったんだ・・・・・・)
飛鳥「しかし、藤目先生のあの表情・・・・・・」
飛鳥さんが嬉しそうに目を細める。
飛鳥「以前は、どうしても恋愛ができないと悩んでいらっしゃいましたが・・・・・・。 よほど、あなたのことを大事に想われているようですね」
○○「そんな・・・・・・けど、こんな騙すようなことは」
飛鳥「藤目先生の新作を楽しみにしている人はたくさんいます。私だってその一人です。 ・・・・・・先生にもあなたにも申し訳ありませんが、私は作品のためなら、なんでもします」
藤目さんが本当にたくさんの人に期待されている作家なのだとわかった・・・-。
・・・
○○と飛鳥が神殿を去った後を、藤目は追ってきていた。
藤目「・・・・・・っ」
二人仲良く話す様子に、藤目の胸に暗い感情が渦巻く。
藤目「これは・・・・・・この感情は・・・・・・。 私は、いったいどうしてしまったというのか・・・・・・」
藤目のつぶやきを、午後の風がさらっていった・・・-。