太陽が高く昇る中、私と藤目さんは、神殿へと急ぐ・・・-。
(よかった、間に合って・・・・・・)
無事に、儀式の前に到着することができた。
神殿にはすでに、婚宴の儀に出席する王族や貴族の方々が集まっている。
(ここで、藤目さんは朗読をするんだよね)
藤目「ステンドグラス越しの再会・・・・・・うん、素敵な設定かもしれない」
藤目さんは、緊張するどころか周囲を興味深げに見回して、次回作の構想に思いを馳せているようだった。
(すごいな、藤目さん・・・・・・)
そんな中儀式はしめやかに進められ、いよいよ藤目さんの朗読の順番が近づいていた。
けれど・・・-。
(あっ・・・・・・)
見ると今度は、藤目さんの襟が曲がってしまっている。
○○「藤目さん、ちょっといいですか?」
藤目「どうしましたか?」
藤目さんの手を引いて、少し屈んでもらう。
○○「・・・・・・失礼します」
襟をまっすぐに直すと、藤目さんが目を細めて微笑んだ。
藤目「・・・・・・さすが、○○さんだ。本当に奥さんみたいですね」
○○「いえ、そんな・・・・・・」
どこか楽しそうに言う藤目さんに、私はそれ以上言葉を続けられなくなってしまう。
その時・・・-。
??「・・・・・・」
(あれ?)
ふと誰かの視線を感じ、振り返る。
けれどそこには、誰の姿も見当たらなかった。
藤目「どうかしましたか、奥さん?」
○○「いえ・・・・・・勘違いでした。それより、奥さんって・・・-」
またしても顔を赤くする私に、藤目さんの優しい眼差しが向けられていたのだった・・・-。
・・・
・・・・・・
そして、いよいよ婚宴の儀が始まった。
藤目さんにより、婚宴の儀にふさわしい愛の詩が朗読される。
藤目「愛とは互いを慈しみ、律するものである・・・-」
落ち着いた声が、神殿に響き渡る。
藤目さんの愛の詩に、そこにいるすべての人々が聞き惚れていた。
(なんて素敵な詩・・・・・・)
朗読が終わった後も、私はいつまでもその余韻に浸っていた。
・・・
・・・・・・
藤目「いかがでしたでしょう」
私の元へ戻ってきてくれた藤目さんに聞かれて・・・・・・
○○「藤目さんが、すごく素敵でした」
藤目「私が? そう言われると嬉しいです」
安堵したように笑い、藤目さんが言葉を続ける。
藤目「そういえば・・・・・・この国には、運命の人を映す水鏡があるようですよ」
○○「運命の人、ですか?」
藤目「ええ。聖水に満たされた水鏡を男女二人で覗き込み、互いが運命の人であったらその姿が映ると・・・・・・」
(運命の人がわかるなんて・・・・・・少し怖い気もするけど)
藤目「運命の人が見えるなんて、大変に興味深いですよね。私の次回作のテーマの参考になりそうです」
○○「次回作のテーマは、もう決まっているんですか?」
藤目「はい、テーマは『運命の恋』です。水鏡にぴったりでしょう? ですが・・・・・・」
藤目さんは、眉根を寄せて難しい顔をする。
藤目「取材が足らないのか・・・・・・どうもこう、まとまらなくて」
その視線がやがて、神殿の奥に飾られた水鏡に向けられた。
藤目「・・・・・・水鏡を見にくる人々を観察します。何かいい発想が浮かぶような気がしませんか?」
○○「そうですね、恋人達の会話も参考になりそうですし」
藤目「やはり、○○さんもそう思いますか? ならばさっそく」
藤目さんは私の手を引き、水鏡の傍の長椅子へと腰を下ろした。
水鏡の前には、たくさんの恋人達が訪れていたけれど・・・-。
藤目「・・・・・・」
女性1「ねえ、私達見られてるのかな?」
男性2「ああ、僕も今そう思ったところだ」
真剣な表情で観察している藤目さんに、恋人達は少し戸惑っているようだった。
(神官様は大目に見てくれているけど・・・・・・藤目さんに言った方がいいかな?)
○○「藤目さん・・・・・・あまりじっくり見ると、皆さんが驚いてしまうかもしれません」
藤目「そうですか・・・・・・そうですよね。 観察に夢中になるあまり、つい配慮に欠けた振る舞いをしてしまいました」
(えっと・・・・・・)
○○「少しだけ・・・・・・」
藤目「そうでしたか。ご指摘ありがとうございます」
藤目さんは、何かを考えるように視線を宙に這わせる。
藤目「もう、たくさん観察できました。充分です。 恋人達を見ていると、想像力が掻き立てられますね。愛は、やはり幸福で温かなものだ。 やはり私は、愛を知らない恋愛小説家です」
微笑を浮かべた後、藤目さんはもう一度水鏡の方へと視線を向けたのだった・・・-。