○○と想いを確かめ合った翌朝…―。
(498……499……500!)
トール「ふぅ……」
素振りを終えた俺は、ミョルニルを近くの木に立てかける。
すると……
○○「トールくん、お疲れ様です」
トール「ああ」
○○からタオルを受け取り、汗を拭く。
そんな俺を、彼女は嬉しそうに見つめていて……
トール「アンタさ。なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
○○「もちろん、トールくんの傍にいられるからですよ。 それに、私が差し出したタオルも受け取ってくれました」
(タオルって……たったそれだけのことで普通喜ぶか?)
(まあ、そんなアンタに惚れる俺も大概だけどな……)
頬が少しずつ熱くなるのを感じ、俺は○○から顔を逸らす。
○○「そうだ。トールくん、朝ご飯はまだですよね? よかったら一緒に食べませんか?」
トール「え? ああ、別にいいけど……」
俺がそう答えると、○○は花が咲くような笑顔を見せた。
トール「変な女……」
照れくささから、俺はタオルで汗を拭くフリをして顔を隠す。
そうして少しの後、二人で食堂へと向かおうとすると…―。
トール「……そういや、さ。今日はアレ、ないのか?」
○○「えっ? アレって……。 あっ。もしかしてサンドイッチのことですか?」
トール「ああ……で、ないのか?」
○○「はい。今日は食堂でと思って……」
トール「そうか……」
少し残念に思いながらそう返すと、○○は慌てたように俺の顔を覗き込む。
○○「あの、それじゃあ厨房をお借りして朝ご飯を作りますね」
トール「いいのか?」
○○「はい。難しいものだとお待たせしちゃうかもしれませんけど……。 トールくん、何か好きな食べ物はありますか?」
トール「特別、これっているのはないな。けど……今、どうしても食べたいものならある。 ……サンドイッチ、作ってくれよ」
俺は気恥ずかしさを必死に抑えながら、ぽつりとつぶやく。
すると○○は、少しだけ目を丸くして……
○○「サンドイッチでいいんですか? せっかくだし、温かいものの方が…―」
トール「……サンドイッチでいいんじゃなくて、サンドイッチがいいんだ。 アンタが昨日作ってくれたやつ、結局食べられなかったからな」
○○「トールくん……!」
○○が瞳を輝かせながら俺に頷く。
そして……
○○「腕によりをかけて作りますね」
トール「ああ、楽しみにしてる」
俺達は笑い合いながら食堂へと向かう。
(……そうだ。念のため、食べられないものは先に言っておいた方がいいかもしれないな)
(サンドイッチなら入っていないとは思うけど……万が一ということもある)
(だけど、○○がどう思うか……)
少しの間考えた後、俺はその場に立ち止まった。
トール「○○、念のため先に言っておく」
(やっぱり食べると言ったからには残すわけにいかないからな)
不思議そうにこちらを見る彼女に、俺はわずかな気まずさを覚えながら口を開く。
トール「……人参はあまり得意じゃない。特に、ハンバーグについてくるようなやつ……。 サンドイッチなら大丈夫だろうけど、参考までに……な」
○○「え……? ……っ!」
○○が、おかしくてたまらないと言ったように肩を震わせる。
トール「笑うなよ! 誰にだって苦手なものの一つや二つぐらいあるだろ!」
○○「ご、ごめんなさい。ちょっと意外で……」
(くそっ! やっぱり言うんじゃなかった……!)
トール「……俺は先に行くからな」
俺はなおも笑い続ける○○をその場に残し、足早に歩く。
すると……
トール「……なんだよ」
腕を絡ませてくる○○から視線を逸らしながら、歩調を緩める。
○○「トールくんの意外な一面が知れて嬉しいです。 これからもあなたのこと、たくさん教えてくださいね」
トール「……!」
ふわりと微笑む○○に、鼓動が跳ね上がった。
そんな彼女に、俺は……
トール「なら、アンタのことも教えろよ。 これからは……ずっと一緒に過ごすんだからな」
まぶしい朝日の中、二人で中庭を歩く。
そっと寄り添う温もりに、この上ない幸せを感じながら…―。
おわり。