俺がヨルムンガンドを倒した、その日の夜…―。
―――――トール『守るべきものがある……守りたい女がいる。 だから、ヨルムンガンド! これで終わりだ!』
―――――
(……まさか、あんなことを口走るとはな)
まだまだ終わりそうにない祝福の宴から抜け出した俺は、あの時ことを思い返しながら○○の部屋へと向かっていた。
(自分でも信じられない。いくら無我夢中だったとはいえ……)
(……アイツ、どう思っただろうな)
期待と不安を胸に、俺は○○の部屋の扉へと手をかける。
…
……
だが……
トール「……俺に一人で背負わなくていいなんて言ったのは、アンタが初めてだったんだ」
○○「そう……なんですか?」
トール「ああ……国を守るのも、国民を守るのも、俺の役目だ。違えるつもりはない。 だが、アンタを守るのはまた別だ。俺にとってアンタは……何よりも、大切な存在だ」
○○「私が、大切……?」
(え……?)
俺の言葉に、○○が不思議そうな顔をする。
(嘘だろ……ここまで言っても通じないなんて)
(そもそも、さっきの戦いの時に何も感じなかったのかよ……)
守りたい女がいる……初めて口にしたあの言葉を思い返すと、どうしようもなく苛立ちが募る。
(くそっ! 本当にどんくさい女だな……!)
トール「いい加減に気づけ! だから……アンタのことが好きだって言ってんだよ!」
○○「えっ……?」
トール「これだけはっきり言えば、どんくさい女のアンタでも、いい加減わかるだろ」
○○の両頬を手で包みながら、俺は胸の中の想いを吐き出した。
(人にここまでさせておきながら、わからないなんて言ったら……絶対に許さないからな)
自分の頬が熱を帯びているのを感じながら、俺は彼女の返事を待つ。
すると……
○○「それ……本当ですか?」
トール「……何度も言わせるな」
(こんなことで冗談なんか言うかよ)
(口で言ってもわからないなら……)
未だに信じられないといった様子の○○を、俺は腕の中に閉じ込めた。
トール「これからも、俺がアンタを守ってやる。 だから……ずっと、俺の傍にいろ」
ありったけの想いを込めて、腕の中の○○に想いを告げる。
すると彼女は短く、それでもはっきりと肯定の返事をしてくれて……
(……やっと、届いたんだな)
トール「俺も……ずっと、アンタの傍にいる」
彼女の細い体を、俺は強く抱きしめた。
○○「トールくん……」
○○が、俺の体をぎゅっと抱きしめ返してくれる。
初めて感じるその温もりは、本当に心地よくて……
(今まで、ずっと独りで戦ってきたのにな)
トール「アンタがいない世界なんて、もう考えられない……。 不思議だよな。今まで一人でいいって言い続けてきたのに。こんな……」
○○「……そんなこと、ないです」
トール「え……?」
彼女は少しだけ体を離した後、真剣な表情を浮かべながら俺の顔を見上げてきた。
○○「トールくん。ヨルムンガンドと戦う前にした約束を覚えていますか?」
トール「ああ。俺が帰ってきたら、またサンドイッチを作ってくれってやつか?」
○○「はい。明日たくさん作りますね。だから……トールくんも約束してください」
トール「約束?」
○○の瞳に、強い光のようなものが宿る。
○○「またヨルムンガンドみたいなモンスターと戦うことがあっても、絶対に帰って来るって。 私もトールくんがいない世界なんて、考えられませんから……」
トール「○○……」
愛おしさと嬉しさで、胸の奥が強く締めつけられる。
そうして、俺は……
トール「ああ、約束するよ」
短くそういった後、○○にそっと顔を近づける。
すると、彼女の長いまつげがそっと伏せられて……
トール「俺達は、いつまでも一緒だ」
月明かりが見守る中、俺は○○に誓いを込めた口づけを落としたのだった…―。
おわり。