トールくんとヨルムンガンドの戦いは熾烈を極め、太陽はすっかり西へと傾いていた。
(トールくん……)
兵士の皆さんに無理を言って見張り台に上らせてもらった私は、固唾を呑んでトールくんの姿を見守る。
(大丈夫。トールくんは、帰って来るって約束してくれたんだから)
(だったら私は、それを信じなきゃ……!)
私が、なおも緊張しながらトールくんを見つめていたその時……
ヨルムンガンド「ギシャアアアアアア!」
ヨルムンガンドがトールくんへと襲いかかる。
すると、次の瞬間…ー。
トール「この国に手ぇ出すんじゃねえよ、ヨルムンガンド!」
ぐっと腰を落としたトールくんが、力強い瞳で前を見据え……
襲いかかってきたヨルムンガンドに向かって、ミョルニルを思い切り振り上げた。
ヨルムンガンド「ギャァアアアアアア……!」
ミョルニルで打ち据えられたヨルムンガンドが、巨大な体を反らす。
その隙を突くように、トールくんが地面を蹴った。
トール「これまでにオマエとは何度も戦ってきたな……。 だが、それももう終わりだ!」
ヨルムンガンドの胴体を、トールくんがまるで風のように身をひるがえしながら駆け上がる。
トール「俺の国は、俺が守る。それが与えられた使命……。 けどな、今の俺はそれだけのために戦ってるわけじゃねえ! 守るべきものがある……守りたい女がいる。 だから、ヨルムンガンド!これで終わりだ! 俺は……アイツとの約束を、果たす!」
ミョルニルが、勢いよく振り下ろされ…ー。
トール「永遠に眠れ、ヨルムンガンド……!」
ヨルムンガンド「ギャァアアアアアア……!」
ヨルムンガンドの断末魔の叫びが、辺りに響き渡った。
…
……
トールくんがヨルムンガンドを倒したという知らせは、あっという間に町中を駆け巡り……
町や城では、祝福の宴が開かれている。
(皆、本当に嬉しそうだったな)
まだまだ終わりそうにない宴から一足先に戻った私はソファに腰を下ろす。
するとその時、部屋にノックの音が響き……
トール「○○、いるか?」
○○「あ……トールくん!今開けます」
大慌てで扉を開くと、トールくんはするりと私の部屋に滑り込んできた。
トール「早く閉めろ。誰かに見つかったらまた連れ戻される」
○○「トールくん、皆に囲まれていましたもんね」
トール「ああ……感謝されるのはいいが、こうずっと続くとな」
綺麗な顔を困ったように歪めながら、トールくんが笑う。
トール「だが、こうして皆を喜ばせることができたのも、アンタのおかげだ」
○○「そんな……私は何もしていません」
トール「いや、約束をしただろう?アンタを必ず守るって」
優しい声色でそう言った後、トールくんは長いまつ毛を伏せる。
トール「……俺に一人で背負わなくていいなんて言ったのは、アンタが初めてだったんだ」
○○「そう……なんですか?」
トール「ああ……国を守るのも、国民を守るのも、俺の役目だ。違えるつもりはない。 だが、アンタを守るのはまた別だ。俺にとってアンタは……何よりも、大切な存在だ」
○○「私が、大切……?」
その言葉の意味を上手く飲み込めずにいると、トールくんは苛立ったように両頬を手で包む。
トール「いい加減に気づけ!だから……アンタのことが好きだって言ってんだよ!」
○○「えっ……?」
トール「これだけはっきり言えば、どんくさい女のアンタでも、いい加減わかるだろ」
不機嫌そうに眉を寄せながらも、トールくんの肌はほのかに赤くなっていて……
○○「それ……本当ですか?」
トール「……何度も言わせるな」
トールくんは少し不機嫌そうに言って、私を抱きしめた。
トール「これからも、俺がアンタを守ってやる。 だから……ずっと、俺の傍にいろ」
(トールくん……!)
○○「はい……」
高鳴る鼓動を抑えながら私が短く返事をすると、トールくんは優しげな笑みを浮かべ……
トール「俺も……ずっと、アンタの傍にいる」
その逞しい腕で、私の体を強く抱きしめてくれたのだった…ー。
おわり。