駆け出そうとするトールくんを、私も反射的に追いかけようとした。
だけど…ー。
トール「アンタは待ってろと言ってるだろ」
振り返ったトールくんに、押しとどめられる。
○○「だけど、トールくん一人でなんて……」
トール「心配するな。俺は絶対負けない」
○○「トールくんが強いのはずっと見ていたからわかります。でも…ー」
トール「そうじゃない」
○○「え……?」
首を振った後、トールくんがそっと私の頬に触れる。
トール「俺はずっと一人で戦ってきた。国を守るなんてことも……本音を言うと、意識していなかった。 俺の使命はヨルムンガンドを倒すこと…ーそれが果たせれば充分だ。 だから、ただ戦うことだけを意識していた。そうすれば、結果として国を守ることに繋がる。 ……独りだって、構わなかったんだ」
○○「トールくん……。 ごめんなさい。やっぱり私、ご迷惑でしたよね……」
トール「いや、そんなことはない」
トールくんは晴れ晴れとした笑みを口元に浮かべ、私の作ったサンドイッチを取り出し、それを一気に食べると、目を細めた。
トール「……悪くないな、こういうのも」
○○「トールくん……?」
トール「アンタにすべてを背負わせるのは嫌だと言われた時、気持ちが楽になったんだ。 肩の力が抜けて体が軽くなった。これなら……今までよりも自由に動ける。 独りじゃないからこそ、強くなれる……アンタが俺に教えてくれたんだ」
○○「……っ!」
トールくんが笑みを浮かべながら私の髪を撫で、そのあまりに無邪気な笑顔に、鼓動が大きく跳ねてしまう。
トール「ありがとう。まあ不味くはなかった。 だから……俺が帰ってきたら、また作ってくれ」
○○「はい……いくつでも作ります!」
トール「ああ!」
??「ギャオオオオオオオオ!」
遠くに、モンスターの雄叫びが聞こえる。
トール「……来たな、ヨルムンガンド。今日こそこの因縁を断ち切る!」
ミョルニルを手にしたトールくんが勢いよく駆け出す。
その背中は今までよりも逞しく感じられた…ー。