夜の中庭で特訓を重ねるトールくんを見た、翌日・・・-。
今日も一人でミョルニルを振るうトールくんに、私は思いきって近づく。
○○「トールくん」
トール「・・・・・・? なんだ、アンタか」
トールくんが、面倒臭そうに私を一瞥する。
トール「何か用か?」
○○「これ、よかったら・・・・・・」
少し緊張しつつ、私は厨房で作ってきたサンドイッチをトールくんに差し出した。
トール「え・・・・・・? ・・・・・・何の真似だ?」
トールくんは珍しく驚いたように目を見開いてきたものの、すぐにいつもの表情に戻ってしまった。
○○「疲れていると思って・・・・・・そういう時は、ご飯を食べるのが一番ですから」
トール「そういうことは俺が決める。アンタが気にすることじゃない」
トールくんが、不機嫌そうに顔を歪める。
トール「昨日といい今日といい、アンタは俺に付きまとい過ぎだ」
○○「そんなつもりじゃ・・・・・・」
トール「いいから、俺のことは放っておけ。他の連中もそうしてるだろ」
拒絶するように言うと、トールくんはさっさと行ってしまう。
すると、その時・・・・・・
兵士1「やはりトール様はすごいな。先日の戦闘の話を聞いたか?」
兵士2「ああ。突如として巨大モンスターが現れたにも関わらず、いつものように一人で戦い抜いたそうだな」
兵士3「あの方はお強い。誰の助けも必要としないのは当然のことだろう」
兵士1「そうだな。我々では足を引っ張ってしまうだろうから・・・・・・」
噂話をする声が、少しずつ離れていく。
(・・・・・・本当に、誰の助けもいらないのかな?)
(どれだけ強くても、たった一人で戦うのは・・・・・・)
ふと、彼の寂しげな背中が頭を過ぎる。
○○「それに、さっき・・・・・・」
サンドイッチを差し出した時の彼は珍しく表情を崩していた。
(思い込みなのかもしれない、けど・・・・・・)
(明日も持っていってみよう)
ほんの少しだけ彼の心が見えたような気がした私は、受け取ってもらえなかったサンドイッチを手に、その場を後にしたのだった・・・-。
・・・
・・・・・・
それから、数日・・・-。
トール「アンタは、また来たのか・・・・・・いらないって何度言わせれば気が済むんだ?」
○○「でも、朝から何も食べていないですよね?」
トール「・・・・・・」
ここ数日の間、私達は同じようなやり取りを何度となく繰り返している。
(この様子だと、今日も無理そうかな・・・・・・)
けれど、私が諦めかけたその時・・・・・・
(あれ・・・・・・?)
いつもであれば呆れたように背を向けてしまうトールくんが、黙々と汗をぬぐっている。
そうして、長い長い沈黙の後・・・-。
トール「食事をどうするかは俺が決める・・・・・・って、何度も言ってんのに」
トールくんは呆れたようにため息を吐いてから・・・・・・
トール「・・・・・・本当に、懲りない女だな」
くすりと、わずかに笑みを浮かべた。
○○「っ・・・・・・!」
トールくんの微笑みに、鼓動が大きく跳ねる。
(初めて・・・・・・笑ってくれた?)
それでも、結局サンドイッチを受け取ってもらえないことに変わりはなかったけれど・・・・・・
(明日もまた、作ってこよう)
初めて目にしたトールくんの笑顔に、胸の中に温かいものが宿ったような気がした私は、そっと、そう決意したのだった・・・-。