アースガルズに滞在し始めてから、数日・・・-。
王「本当に、あなたのおかげで助かりました」
○○「そんな、私は何もしていませんから・・・・・・」
王妃「いいえ、あなたがいなければ、どうなっていたことか・・・・・・」
トール「・・・・・・」
私はトールくんを助けた恩人として、城の人々に歓迎され・・・・・・
彼のご両親である王様達のご厚意によって、何不自由なく過ごしていた。
王「ヨルムンガンドを倒せるのは、トールを置いて他にないからな」
王妃「ええ。トールは、このアースガルズの希望・・・・・・。 ユメクイにやられたと聞いた時は生きた心地がしなかったわ」
兵士1「トール様がいてくださるならば、何も恐れることはありません!」
兵士2「トール様ならば、必ずやヨルムンガンドを倒してくださるはず!」
謁見の間にいる人達が、口々にトールくんを褒め称える。
○○「すごいですね、トールくん」
トール「何が?」
○○「だって・・・・・・。 皆さんの期待を一身に背負っているから・・・・・・」
トール「ミョルニルに選ばれたんだ。その相手に期待しない奴はいないだろ」
そう言って、トールくんは髪を掻き上げた。
けれど・・・・・・
トール「・・・・・・この国の未来は、俺にかかっている。 俺がやらなければいけないんだ」
○○「え・・・・・・?」
トールくんはぽつりとつぶやいた後、背中を向けて歩き出す。
その後ろ姿は、どこか寂しそうに見えて・・・・・・
(気のせい、かな・・・・・・?)
私の胸の奥に、小さなしこりのようなものが残ったのだった・・・-。
・・・
・・・・・・
数時間後・・・・・・
(月が綺麗・・・・・・)
皆が寝静まった後、なんとなく寝ることができなかった私は、少し風に当たろうと中庭へとやってきた。
けれど、その時・・・・・・
(何の音・・・・・・?)
風を切るような音に気づいた私は、音のする方へと歩く。
すると・・・-。
○○「トールくん・・・・・・?」
月明かりの下、トールくんがミョルニルを勢いよく振り回している。
(すごい・・・・・・トールくんって、こんなに力があったんだ・・・・・・)
身の丈ほどもあるミョルニルを力強く振り抜く度に、トールくんの汗がきらきらと輝く。
その姿は真剣で、とても美しくて・・・・・・なぜかとても神聖に感じられた。
(皆の期待に応えるために、特訓してるのかな? でも・・・・・・)
(なんだか、少し辛そう・・・・・・)
トールくんは歯を食いしばりながらミョルニルを振るっている。
時間を追うほどに、彼の額を流れる汗の量も増えていった。
その姿から目を離せずにじっと見つめていると・・・・・・
トール「・・・・・・いつまで見てる気だ?」
ふと動きを止めたトールくんが、睨むように私の方に顔を向けた。
○○「あ・・・・・・ご、ごめんなさい・・・・・・」
(気づかれてたんだ・・・・・・!)
慌てる私を、トールくんが冷たい目で見据える。
トール「まさか、俺の体が心配だのなんだの、言うつもりじゃないだろうな?」
○○「それは・・・・・・」
トール「アンタに心配されるほど、俺はヤワじゃないんだ。 余計なことを考えてる暇があったら、とっとと部屋に戻って寝ろ」
冷たく言い放つと、トールくんは私を背に向けミョルニルを握った。
けれど、その背中はやっぱりどこか寂しげで・・・・・・
(・・・・・・トールくん、いつも一人で頑張ってたのかな)
(余計なことはするなって言われちゃいそうだけど、何か私にできることは・・・・・・)
美しい月の下、懸命にミョルニルを振るい続けるトールくんを見つめながら・・・・・・
私は、彼のためにできることを考え続けたのだった・・・-。