モンスターから逃げ切った私達は、城壁の中へと足を踏み入れる。
そびえ立つ壁の内側にある街は多くの人々が行き交い、活気に満ちていた。
○○「とても素敵な街ですね。でも、どうして壁の内側に・・・・・・?」
トール「モンスターの襲来を防ぐためだ。 モンスティートは巨大で獰猛なモンスターが数多く現れる、過酷な環境下にある。 その中で身を守りながら生きていくための知恵だ」
○○「それじゃあ、安心して暮らせないということですか・・・・・・?」
トール「ああ。だから俺達王族や力のある者達が、モンスターを討伐しているんだ」
隣を歩くトールくんが足を止めて振り返る。
トール「見せてやる。この国を守る力を」
そう言うなり、トールくんは持っていた大きなハンマーの柄を強く握った。
すると、次の瞬間・・・-。
○○「これは・・・・・・」
トールくんの体を淡い光が包み込む。
けれどそれは一瞬のことで、光は静かに消えていった。
トール「ミョルニルだ。俺の一族に造られた神の武器・・・・・・。 このミョルニルはアースガルズの宿敵、ヨルムンガンドを倒す者に受け継がれるんだ」
○○「すごい・・・・・・」
私は、先ほどの幻想的な光景を思い返す。
○○「ミョルニルがあれば、どんなものでも守れそうですね」
トール「ああ。俺は、この国を守るためにミョルニルを振るっている。 選ばれた者として当然の責務だからな」
トールくんはミョルニルの柄を握りながら、さも当然といったように言葉を紡ぐ。
(そういえば・・・・・・)
○○「ヨルムンガンドというのは、モンスターなんですか?」
トール「ああ・・・・・・どんな敵も倒してきた俺達が、唯一倒せていない蛇のモンスターだ。 俺には、奴を倒す使命がある」
そう言った後、トールくんが私へと視線を向けた。
トール「もうすぐヨルムンガンドが来る。今外に出れば危険だ」
○○「えっ?」
トール「ずっと奴と戦ってきた俺にはわかるんだよ。だから・・・・・・。 落ち着くまではこの城にいればいい」
○○「でも・・・・・・」
申し訳なさから、私は思わず口ごもってしまう。
トール「遠慮はいらない。何かあってからじゃ遅いからな」
○○「トールくん・・・・・・」
(こんなふうに気遣ってくれるなんて、トールくんって優しいな)
私はトールくんにお礼を言おうと、口を開きかけた。
けれど・・・・・・
トール「さっきも言った通り、この辺りは屈強な男達でも手を焼くモンスターがうろついている。 アンタみたいなどんくさい女は、すぐにモンスターに食べられておしまいだからな」
○○「えっ・・・・・・?」
冷たく言い放つトールくんに、私は驚きの声を上げてしまう。
するとトールくんは、私から視線を外して遠くの空を見上げ・・・・・・
トール「余計なことはせずにおとなしくしてろ。一応は恩人なんだからな。 俺とミョルニルがヨルムンガンドを倒すまで、ゆっくりしていくといい」
(それって・・・・・・)
言葉こそ、乱暴で冷たい。
けれどその中には、ほのかな優しさがあるように思えてならなかった・・・-。