朝露に庭の花々が輝く。
ぼくは、そこから一本のバラを手にとった。
トルマリ「いい香り~」
花に顔を近づけて、その香りをかいだ。
(○○ちゃんに渡そう。きっと喜んでくれるだろうな)
初めてできたぼくの大事な友達。
(この姿のぼくを受け入れて、可愛いと言ってくれるなんて……アルマリ以外、初めてかも)
トルマリ「早くアルマリにも会わせたいなー」
(そしたらきっと3人で遊べる)
昨日、彼女と出会って、ぼくは楽しくて仕方なかった。
もっと一緒にいたくて、夜が早く明ければいいのにとずっと願っていた。
(今日は○○ちゃんと何して遊ぼうかな?)
空を見上げると、吸い込まれそうに鮮やかな青空が広がっている。
(そうだ、こんな天気もいいし、庭でティーパーティーもいいかも! ○○ちゃん、昨日足痛めてたし。また変な奴らが絡んできても邪魔だしね)
トルマリ「せっかく出来た友達なんだから、大事にしないと! ○○ちゃんを怖がらせる事なんて、もうしないんだから!」
彼女の楽しそうな笑顔を思い出す。
(そろそろ○○ちゃん、起きたかなあ)
トルマリ「ああもう!待ち遠しいから迎えに行っちゃお!」
花を手に、ぼくは彼女を誘いに部屋へ向かった。
…
……
彼女をティーパーティーに誘った後…―。
クッキーを一緒に作ろうと、彼女と調理場へ来ていた。
トルマリ「なんだかすごくワクワクする」
お菓子を作るなんて初めてだ。
彼女はどんどんぼくに初めてを作ってくれる。
○○「私もだよ」
隣に並ぶ彼女が、僕を見て微笑んだ。
(可愛いな)
彼女の笑顔を見ると、僕の胸がくすぐったくなってくる。
(本当に楽しい時ってこうなるのかな)
クッキーの生地をこねながら、隣で同じように生地をこねる彼女をそっと見る。
(真剣な顔してる……)
僕の視線に気づかずに、彼女は生地相手に一生懸命格闘している。
(せっかく一緒にクッキーを作ってるんだから、僕も頑張らないと)
ぼくも慌てて生地を広げた。
(アルマリもいたらいいのにな。アルマリも、クッキーなんて作った事ないよね。ああ、そっか。ぼくとアルマリは男だけど、○○ちゃんは女の子だもんね。女の子ってこういう遊びをするんだ……)
トルマリ「見て見て!星の形!」
ぼくは、星型にくり抜いた生地を見せる。
○○「可愛い!私は、ハートの形にしようかな」
彼女はさっそくハートの方の型取りを手に生地に向き直った。
トルマリ「たくさん作れるね!今度はどんな形にしようかなあ~」
あれこれ型をくりぬきながら、ぼくはまた隣の彼女を見た。
(あ、○○ちゃんの頬に粉がついてる。可愛いなあ、きっと気づいていないんだろうな……)
頬の粉を取ろうと手を伸ばしかける。
けれど、ぼくの手が届く前に、彼女は自分の指で拭ってしまった。
(あ~あ、残念。あれ?どうして残念なんて思うんだろ)
よくわからなくて、僕は首をかしげた。
(う~ん、触れなくて残念なんて変だよ。だってアルマリに触れなくて残念なんて、思ったことないし)
そんな事を考えていたせいか、鉄板を釜から引っ張り出そうとしたその時…―。
トルマリ「……わっ!」
手に触れた鉄板の熱さに、僕は驚いて声をあげた。
○○「トルマリ!?」
トルマリ「ごめんね、鉄板を出そうとしたら、思ったより熱くって……」
ジンとした痛みに、指先を見ると、触れた箇所が赤くなっていた。
(やっちゃった……注意不足だ。ぼくらしくないなあ)
○○「大丈夫?ケガはない?」
トルマリ「全然平気だよ、ありがとう」
彼女が心配そうに、ぼくの顔を覗き込む。
(その心配そうな瞳、アルマリみたい)
その頭を撫でて、大丈夫だよって言ってあげたくなる。
トルマリ「ごめんね、ビックリさせちゃって」
彼女は安心したように笑うと、首を横に振った。
その仕草に、また胸がくすぐったくなる。
(不思議……こんな事でも、楽しいって思えるなんて。アルマリ、早く戻ってこないかな。きみに紹介したいんだ。ぼくの大切な友達を)
鉄板を釜に入れると、しばらくして甘い香りが漂ってきた。
その甘さに、また心が弾んだ…―。
おわり。