夕焼けが、街も人も、ぼくの部屋の中も全部染めていく。
いつもだったら、窓から外を眺めている時間だ。
けれど、今日は違う。
トルマリ「○○は、明るい色のドレスが似合うと思うんだよね」
彼女のドレスを選ぶため、ぼくはクローゼットの中を見渡していた。
(このドレスはどうかな……○○にぴったりかも)
(いや、こっちの方が似合うかな。着たらきっと可愛いんだろうな)
○○とは今日初めて出会ったのに、ぼくは今、彼女のことで頭がいっぱいになっている。
(何だろう、すごく楽しい)
(こんな気持ち、初めてだ……)
ふと、あの時のことを思い出した。
(あの言葉、嬉しかったな……)
それは、路地のあの男達がぼくを気持ち悪いと言った時のこと…―。
ー----
○○「……謝ってください」
街の男「はぁ?」
○○「トルマリのこと、そんな風に言わないで……!」
ー----
彼女は、震えながらも男達にはっきりと言った。
その言葉を思い出し、ぼくは思わず自分のドレスをぎゅっと抱きしめる。
(その前まで怖がって震えていたのに、無茶するよね)
(それでも、ぼくのために言ってくれたんだ……)
後ろにいる彼女を盗み見る。
(でも、きみは一つだけ間違っているよ)
(ピンクのドレスが一番似合うのは、ぼくよりきみなんだよ)
…
……
ぼくが選んだドレスに着替えた彼女が、嬉しそうにこちらを振り返る。
○○「ありがとう、トルマリ…―」
(すごく、かわいい……)
選んだドレスは本当によく彼女に似合っている。
そんな彼女を見て、ぼくは少しだけ胸が苦しくなる。
(きみの隣に、男のぼくで立ちたいな)
(そう言ったら、きみはどう思うんだろう)
(きっと驚いて顔を真っ赤にするかも)
女の子の服を着ている自分を、初めて少し嫌だと思った。
○○「どうしたの?」
何も言わないぼくに、彼女が不安そうな顔をする。
誤魔化すように、ぼくは靴を彼女に手渡した。
トルマリ「はい、これ。 これだったら、痛くないと思う」
○○「ありがとう!」
嬉しそうに、彼女がはにかむ。
その頬に、触れたいと思った。
(手で触れて、キスしたい)
(ぼくを見つめる瞳にも、可愛らしい鼻にも)
(唇にも……)
トルマリ「やっぱりそのドレス、ぼくが着るより似合ってる」
○○「そ、そんなことないよ……」
彼女が恥ずかしそうに後ろを向いてしまう。
その拍子に、彼女がドレスの裾を踏んでしまい、倒れそうになった。
○○「……っ!」
トルマリ「危ないっ!」
とっさに彼女を後ろから抱きとめる。
腕に感じた彼女の暖かさに、胸が音を立てた。
(軽い……それに、何て…―)
顔が一気に熱くなっていく。
彼女の柔らかさに、どうしていいかわからなくなる。
(早く……離さないと)
けれどその時…―。
彼女のうなじがぼくの視線を奪った。
吸い込まれるように、そのうなじに唇を寄せそうになって…―。
○○「……! あ、ありがとう……」
触れそうになった瞬間、彼女の声にハッと我に返った。
(ぼく……今……)
そっと彼女を腕から離す。
そして、彼女が振り向く間に、なんとか笑顔を貼りつけた。
トルマリ「危なっかしいなあ、○○は」
ちゃんと笑えているか、不安だった。
けれど、彼女はぼくの様子を気に留める余裕はないみたいだった。
(○○の顔、赤い……)
彼女の顔は、ぼくと同じように真っ赤になっている。
(顔が赤いのは、転びそうになって恥ずかしいから……?)
(それとも、少しはぼくにドキドキしてくれたのかな?)
(……そうだったらいいな)
彼女への想いがどんどん胸の中で膨らんでいく。
(きみはぼくの事を、可愛い女の子みたいに思っているから)
(でも、違うよ? ぼくは男なんだ)
自分と同じ気持ちでいて欲しいと、どこかで思いながら、きみと肩を並べてドアへと向かう。
(ぼくが女の子の服装をやめることはないけれど、きみには男だと思われたい)
(わがままかな……)
けれどぼくは、きみはそれも受け入れてくれるんじゃないかって、心のどこかで願っている。
だからぼくは、きみに言おうと思う。
(ぼくと、ダンスを……)
空が黄昏色から、濃いブルーに変わっていく。
その中に浮かぶ星が、彼女と同じように美しく輝いていた…―。
おわり
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