煌びやかに装飾された会場で、私の歓迎パーティーが開催されている。
(こんな素敵なパーティー……トルマリにお礼を言わなきゃ)
会場に、優美な曲が流れ始めた。
トルマリ「〇〇」
〇〇「トルマリ! 素敵だね、ありが…-」
トルマリ「……」
(トルマリ?)
トルマリが、いつになく真剣な表情で私を見つめている。
そして…-。
トルマリ「〇〇」
トルマリが私の名前を呼んで、跪いた。
トルマリ「どうか、ぼくと踊ってください」
(……っ)
トルマリが、優雅にその手を私に差し出す。
その仕草と、真っ直ぐな視線に誘われるように、私はその手を取った。
〇〇「……はい、喜んで」
トルマリは、優雅にドレスをなびかせながら、慣れない私を優しくリードしてくれる。
トルマリ「大丈夫。ぼくに体を預けて」
私の腰元に添えられたトルマリ手のひらの熱が、ドレス越しに伝わってくる。
(なぜだろう……トルマリの顔が全然見られない)
私とトルマリのダンスは、やがて会場全体の拍手に包まれていった…-。
穏やかなムードの中、パーティーはお開きとなり、メイドさんに部屋に案内される。
メイド「本当に素敵なダンスでした」
〇〇「あれは、全てトルマリのリードのおかげです」
メイド「あんなに男らしい王子を拝見したのは初めてです」
〇〇「え?」
メイドさんは私に部屋の説明を済ませると、持ち場へ戻っていった。
(男らしい……)
―――――
トルマリ『どうか、ぼくと踊ってください』
―――――
(思い出すと、なんだか恥ずかしいな)
〇〇「……」
(トルマリは今、どうしてるんだろう)
部屋の窓から見える夜空に、美しい星がきらめいている。
その輝きに、あの時のトルマリの顔が思い出されて…-。
(私、どうしちゃったんだろう)
頬が熱くなるのを、感じていた。
…
……
翌日…―。
広く澄んだ青空を見ていると、部屋へトルマリがやってきた。
(トルマリ……!)
トルマリ「昨日はゆっくり眠れた?」
〇〇「う、うん。ありがとう」
(どうしよう、なんだか上手く話せない)
トルマリ「天気もいいし、中庭でお茶しようよ♪」
〇〇「……う、うん」
トルマリの無邪気な笑顔に誘われて、私は部屋を後にした。
手入れの行き届いている美しい中庭には、既にティーセットがされていた。
トルマリ「どうぞ、〇〇」
トルマリは、私を席へ導くと、椅子を引いてくれる。
トルマリ「昨日のドレス、本当によく似合ってたよ」
〇〇「ありがとう。トルマリも、すごく可愛かったよ」
(……可愛かった?)
―――――
トルマリ『どうか、ぼくと踊ってください』
――――
トルマリのあの仕草を思い出して、顔が熱くなるけれど…-。
トルマリ「〇〇に言われると嬉しいな」
トルマリの朗らかな笑顔を、美味しい紅茶に、次第に緊張がほぐされていった…-。
トルマリ「……あのことは、内緒にしてて」
トルマリが真剣な表情で私を見つめる。
〇〇「あのこと?」
トルマリ「ぼくがこの格好をしている理由……。 この事を話したの、〇〇が初めてなんだ」
―――――
トルマリ『ぼくは長男だから、このままいくとぼくが次の国王になっちゃうんだよね。 でも、アルマリのほうが国王にふさわしいから。 だから、ぼくは自分が好きな格好をして、自由気ままに生きるの』
―――――
(……トルマリ)
〇〇「もちろん、誰にも言わないよ」
トルマリ「ありがとう……〇〇」
〇〇「そんな大事なこと、話してくれてうれし……え?」
私の頬にトルマリの唇が優しく触れた。
柔らかい感触が頬に残り、言葉が出ないでいると…-。
トルマリ「ありがとうのキス……だけじゃないよ」
顔を話したトルマリが、真っ直ぐに私の瞳を見据えている。
〇〇「……!?」
トルマリ「ぼく、〇〇のことが大好き」
トルマリの芯の通った声が、私の胸に響く…-。
〇〇「私も……大好きだよ」
(トルマリは、とっても可愛くて)
(……とってもかっこいいよ)
たくさん伝えたいことがあるのに、うまく言葉にならない。
恥ずかしさにうつむく私の顔を、トルマリが覗き込む。
その瞳が、優しく私を映し出していた。
(……そんなに優しい笑顔を向けないで)
その微笑みが、今までにないくらいに私の胸を高鳴らせる。
トルマリ「……可愛い顔」
そしてもう一度トルマリの手が私の頬を包み込む。
〇〇「……っ」
熱を帯びていく私の心を見透かすように……
トルマリは、悪戯に笑って見せるのだった…-。
おわり。