ベウルの弟「ねえねえ、お姫様。お兄ちゃんを起こすの手伝って!」
ベウルの妹「ええー!だめだよ。お兄ちゃん怖いもん!お姫様、びっくりしちゃうよぉ」
(怖い?……ベウルさんが?)
私は首を傾げながらも、弟さん達とベウルさんの寝室へと向かう…―。
けれど、寝室の前に辿りついたところで、ベウルさんの弟さんが慌てて立ち止まった。
ベウルの弟「いけない!お兄ちゃんを起こすのに、大事なもの忘れてきちゃった……!」
ベウルの妹「ええっ!?『あれ』がないと大変だよ!」
ベウルの弟「うん、とってこないと……お姫様ちょっと待っててね!」
○○「え……?」
弟さん達は私を残し、廊下の向こうへと、いっせいに駆け出してしまった。
(慌てて飛び出していっちゃったけど……『あれ』ってなんだろう……?)
不思議に思いながら、私は部屋の扉と廊下を交互に見た。
(どうしようかな……)
ー----
ベウル「じゃあさ……次の約束をさせてくれる?春になったら、また会いに来て欲しい」
ー----
柔らかな笑顔を思い出すと、早く会いたいという気持ちがこみ上げて来る。
(ベウルさん……)
迷いながら寝室の扉をノックし、しばらく待ってみる。
でも、中から返事はなかった。
(やっぱりベウルさん、まだ寝ているみたい……すぐに二人は戻ってくるだろうし、先にベウルさんを起こしに行こう)
そう決めた私は、静かに寝室の扉を開けた…―。
月明かりを頼りに、部屋の中央にある広々としたベッドに歩み寄る。
息を潜めて覗き込むと、そこには大きな身体を丸めるようにして眠る、ベウルさんの姿があった。
ベウル「……」
穏やかな寝息を聞いていると、思わず笑みがこぼれてきた。
(ベウルさんの寝顔……可愛いな)
そっと屈み込み、顔にかかったベウルさんの髪を指先で払おうとした時…―。
バランスを崩して、思い切りベウルさんの上に倒れ込んでしまった。
ベウル「!!」
○○「ご、ごめんなさ…―!!」
すると…―。
唐突にその手を掴まれ、強い力でベッドの上に引き倒された。
○○「……!」
ベウル「……いい気持ちで寝てんのに……ったく、誰だよ?邪魔すんのは……」
(え……)
低く不機嫌な声でつぶやきながら、ベウルさんが私の上に圧し掛かってくる。
驚きながら逃れようともがけば、押さえつける手に、より強い力が込められた。
○○「い、痛い……!」
ベウル「……逃げんなよ。おれ、いま機嫌が悪い……これ以上暴れると、動けなくするぞ……」
○○「ベウルさん……!」
目の据わったベウルさんは、私のほうをまともに見てくれない。
ベウル「そうだ……おとなしくしてろ」
(一体……どうしちゃったの!?)
何がなんだかわからずに、私は体を震わせることしかできない。
ベウル「……ん?」
怯える私の首もとに顔を埋めると、ベウルさんは匂いを嗅ぐようにクンと息を吸った…―。