―――――
ベウル『春になったら、また会いに来て欲しい』
―――――
そう約束して○○ちゃんと別れてから、しばらく…―。
ベウル「今日もいい天気……」
暖かな日差しの中で伸びをしていると、遠くから小鳥の声が聞こえてきた。
ベウル「すっかり春だなぁ」
城では、これからやってくる○○ちゃんを迎えるための準備が進められている。
春の食材をたっぷりと使った料理や新鮮な果実を絞ったジュース……
ベウル「○○ちゃん、喜んでくれるといいな」
うきうきとしながら、彼女との約束の時間を待つ。
すると……
皇后「ベウル、こんなところにいたのですね」
母上が、弟と妹を連れてやってくる。
ベウル「母上、それに二人とも、どうしたの?」
ベウルの弟「これからぼく達、おでかけなんだ!」
ベウルの妹「お土産、いっぱい買ってくるね」
ベウル「え? でも、今日は……」
(せっかく○○ちゃんが来てくれる日なのに)
そう思いながら、おれは母上を見つめる。
そんなおれに、母上はにっこりと微笑んで……
皇后「再会の日ぐらい、二人で過ごしたいでしょう?」
ベウル「えっ? なに言ってるんだよ。おれは別に、そんな……」
(いや、確かにちょっとは思ったけど……)
心臓の音が、どんどんと速くなっていく。
皇后「夕方には戻ります。姫に、失礼のないようにね」
ベウル「……」
(なんだか、ものすごく恥ずかしい……)
おれは、すべてを見透かしたような母上から思わず目を逸らしてしまう。
ベウルの弟「お兄ちゃん、どうしたの? 顔、赤いよ?」
ベウルの妹「もしかして……風邪引いちゃったの?」
ベウル「えっ? あ、いや、そういうわけじゃないよ」
ドキドキと高鳴る鼓動を落ち着かせながら、心配そうに見上げてくる弟達に笑いかける。
そうして、少しの間の後……
皇后「さあ。それじゃあ、行きましょうか」
ベウルの弟「うん!」
ベウルの妹「お兄ちゃん、いってきます!」
ベウル「皆、いってらっしゃい」
おれはその場で手を振って、母上達を見送る。
ベウル「……。 はぁ……びっくりした……」
母上達の姿が見えなくなった後、おれは大きくため息を吐き、傍にあるウッドチェアへと身を預けた。
(母上……やっぱり、おれの気持ちに気づいてたんだ)
彼女と過ごしていく内に、少しずつ大きくなっていった想い…―。
(隠してたつもりだったんだけどな)
おれは、なんともいえないくすぐったさを誤魔化すように頬を掻く。
その時だった。
(あ……!)
ベウル「○○ちゃん!」
生け垣の向こうから彼女の姿が見えた瞬間、おれはウッドチェアを引いて立ち上がる。
ベウル「よく来てくれたね! 待ってたよ!」
○○ちゃんに駆け寄ったおれは、彼女の小さな手を取った。
(本当に久しぶりだな……)
ベウル「会えて嬉しいよ。冬の間、今日のことをずっと楽しみにしていたんだ」
○○「私もです」
おれが心からの想いを伝えると、○○ちゃんが微笑み返してくれる。
(きみも、同じ気持ちだったんだ……)
(そっか……嬉しいな)
心の中が、じんわりと暖かい気持ちで満たされていく。
そして……
ベウル「パーティまで、まだ時間があるから少し出かけない? ○○ちゃんに、春のアベルディアを見て欲しいんだ」
(生き生きとした、春のアベルディアを……)
(きみと、手を繋いで歩きたい)
○○「はい、是非連れて行ってください」
○○ちゃんが、笑顔で頷いてくれる。
そんな彼女に、おれは頷き返し……
(きみが隣にいると、幸せがたくさん溢れて……心も体も、ぽかぽかする)
(きみは、まるで春みたいだね)
甘い花の匂いに、繋いだ手から伝わる優しい体温……
おれはアベルディアにようやく訪れた春を体いっぱいに感じながら、大好きな彼女と一緒に、城下町へと向かったのだった…―。
おわり。