春になったある日、私はベウルさんと彼の城で再会した。
ベウル「会えて嬉しいよ。冬の間、今日のことをずっと楽しみにしていたんだ」
満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきたベウルさんが、私の手を取って笑顔を見せる。
○○「私もです」
私とベウルさんは手を取り合いながら、微笑みを交わした。
ベウル「パーティまで、まだ時間があるから少し出かけない?○○ちゃんに、春のアベルディアを見て欲しいんだ」
○○「はい、是非連れて行ってください」
ベウルさんは頷くと、私の手を取ったまま、城下町へと向かった。
城下町は穏やかで明るい雰囲気に包まれていて、至る所に春の芽生えを感じ取れた。
つがいで舞う紋白蝶や、花の匂い、通り過ぎていく風さえも優しい。
(なんだか、それだけですごく幸せな気分……)
私だけでなく、道行く人の誰もが幸せそうな笑顔を浮かべ、春の訪れを祝福しあっている。
冬前に訪れた時は保存食が目立った市場の店頭も、今日並んでいるのは春の野菜や新鮮な魚だった。
○○「市場、前に来た時とは全然違いますね……」
ベウル「ふふ、でしょう?市場が開くまでの間、ずっと保存食を食べて過ごすからね。アベルディアの人は皆、春が訪れると新鮮な食べ物を求めるんだ」
○○「確かに、保存食ばかりじゃ飽きちゃいますもんね」
ベウル「うん。それに……秋頃、慌てて保存食に加工するから、時には不足しちゃって、不自由な思いをさせてしまうことも多かったんだよ。でも、城では今、春や夏に採れた食材で作る保存食について、研究をしてるんだ」
○○「そうなんですか。色々なことに取り組んでいるんですね」
ベウル「おれだけじゃなくて、皆が国をよくしようと思ってくれてるんだ」
そんな話をしながらしばらく歩いていると、豊かな緑に囲まれた施設に辿りついた。
建物の前の広場では、子ども達が楽しげに遊び回っている。
(ここ、学校かな……?)
男の子「あ、ベウル様!!」
ボール遊びをしていた男の子が一人、声を上げながら、こちらに駆け寄ってくる。
(あ!あの子は……)
初めて見た時とは違って健康的な顔色をしているものの、間違いなく、市場で倒れていた男の子だった。
ベウル「やあ、冬眠はちゃんとできた?」
男の子「うん、大丈夫だったよ!」
男の子はしばらく談笑してから、友達の元に戻っていった。
ベウル「ここは国が運営する保護施設なんだ。まだ始めたばかりだからいろいろ問題も多いんだけど、この施設も国自体も、いい方向に変えていけたらって思ってるんだ。春が来て、季節が巡るみたいにさ」
○○「すごく素敵ですね……」
ベウル「ありがとう。アベルディアの頑張ってる姿……こうして、きみに見せられて良かった」
ベウルさんは微笑みを浮かべながら、繋いでいた手にギュッと力を込めた…―。