アベルディアへやって来た私は、ベウルさんと一緒に城下町の市場を見て回ることにした。
通路の両側にずらりと軒を連ねた露店は、どこも繁盛している。
並んでいるのは、野菜や果物などのわずかな生鮮食品と、ドライフルーツや干し肉、ジャムなどの、豊富な種類の保存食だった。
男性「干し肉を5キロ、包んでくれ」
女性「私は3キロちょうだい」
そんな活気あるやりとりが、あちこちから聞こえてくる。
道行くお客さん達は皆、両手に大荷物を抱えていた。
ベウル「冬眠用の買い出しってすごい量だから、びっくりしたでしょ」
○○「はい。本当に、皆さんいっぱい買い込んでいますね」
ベウル「うん。眠ってる間は食べてなくても大丈夫なんだけど、起きた後、食料の買い置きがないと大変だからね」
○○「なるほど、確かに……」
ベウルさんの説明に頷きながら辺りを見回すと、大柄な人々が山ほどの荷物を抱えて歩く姿に、少し圧倒される。
(男の人も、女の人も、大きいな……これだけ体が大きいと、たくさん食べるだろうし、準備も大変そう。邪魔にならないよう、気をつけなくちゃ……)
人混みの中で、私は小さな子どもになったような錯覚を覚えた。
すると……
ベウル「あ、歩きにくかった?よかったら、おれが抱っこしてあげるよ」
私の前に屈んだベウルさんが、無邪気に問いかけてくる。
○○「えっ?あ、えっと……だ、大丈夫です」
ベウルさんの申し出を、やんわりと断っていたその時……向かいの露店から、フルーツの乗った籠を持った店主が近づいてきた。
店主「ベウル様、視察ですか?」
ベウル「いや、お客様を案内しているんだ。ねっ?」
○○「はい。私、トロイメアの……」
私が軽く自己紹介をすると、店主さんは人の好い笑顔を向けてくれる。
店主「ベウル様とお姫様。よかったら試食していってください」
ベウル「おいしそうな洋梨だね。ありがとう」
ベウルさんは受け取った洋梨に大きな口でかぶりつき、シャリシャリと音を立てながら、嬉しそうに咀嚼している。
(こんなに美味しそうに物を食べる人、初めて見たかも……)
ベウル「○○ちゃん、どうしたの?」
○○「ベウルさんって、美味しそうに食べますね」
ベウル「そうかな。でもたしかに、美味しいものを食べてる時って、すごく幸せな気持ちになるな」
店主「さあさあ、お姫様も是非、お召し上がりください」
○○「あっ、はい。それじゃあ、いただきます」
ベウルさんにならって、丸のままの洋梨にかぶりつく。
その瞬間、瑞々しい甘さが口いっぱいに広がり、思わずため息が出た。
○○「……本当に、すごく美味しいです!」
ベウル「じゃあ、これ、おみやげに買っていこう」
店主「ありがとうございます」
店主さんに包んでもらった洋梨を受け取り、私達は市場の奥へとさらに足を進めていった…―。