月7話 震える手

突然の激しい雷雨に、ロッソさんも私もすっかり青ざめてしまっていた。

ロッソ「……しかし、俺が皆を守らなければ……誰が守る……」

自身を叱咤するように、ロッソさんが震えるつぶやきを漏らす。

〇〇「無理しないでください、ロッソさん」

堪らずに、ロッソさんの傍に寄り添った。

ロッソ「無理だろうとなんだろうと、守らなければ……っ。 他に誰が守ってくれるってんだ」

悔しげに言いながら柱を握りしめるその手は、ずっと小刻みに震えている。

(ロッソさん……雷が怖いの? それとも……また仲間を失うのが、怖いの?)

〇〇「ロッソさん、船はまだしっかりと保たれています。 私もここにいます……きっと大丈夫です」

ロッソ「っ……」

ロッソさんの震える手に、そっと自分の手を重ねる。

〇〇「もう少し……ロッソさんが落ち着くまで……こうさせてください」

それからゆっくりと、両手で力強くその手を握りしめた。

ロッソ「〇〇……」

弱々しい瞳が私を見る。

怯えたその瞳と血の気を失った唇が、私の胸を締めつけた。

ロッソ「〇〇……」

求めるように名前を呼ばれ、私は彼に優しく笑いかけた。

〇〇「はい、私はここにいます」

ロッソ「ああ……」

ロッソさんが軽く瞳を伏せる。

いつもは強く明るいその顔が、今ばかりはひどく頼りない。

(どうかこのまま、嵐が通り過ぎてくれますように……)

そう願い続ける他、私にはできなかった…―。

……

それからしばらく……

願いが通じたのか、嵐は過ぎ去り、海は穏やかさを取り戻し始めた。

(よかった……)

安堵のため息をこぼしながら、ロッソさんの手を握りしめていた力をそっと緩める。

ロッソさんは、所在なさげに視線を彷徨わせると……

ロッソ「すまなかった……」

ぽつりと、言葉を吐き出した。

〇〇「そんな……謝らないでください」

ロッソ「いや……俺はどうしても、あの日の記憶が抜けずに……今も雷に怯えているんだ。 情けない男だ……」

〇〇「情けないだなんて……」

何か言葉がかけられればと探している間に、ロッソさんが力なく首を左右に振る。

ロッソ「仲間を失ったあの日は、今日のような嵐で、激しい雷が鳴っていた……。 あの時、これくらいのしけなど、どうってことねえと息巻いたのは俺だ……。 俺が皆を……殺しちまった……」

〇〇「そんなこと……言わないでください」

思わず、再度きつく手を握りしめると……

〇〇「っ……!」

ロッソさんが、すがりつくように私に抱きついた。

きつく抱きしめたまま、まるで呪文のようにつぶやきを漏らす。

ロッソ「許してくれ……どうか俺を、許してくれ……」

心からの苦しみと贖罪に、胸が押し潰されそうに苦しい。

堪らずに私は、ロッソさんを守るようにきつく抱きしめ返した。

それが、彼への呪いだとも気づかずに…―。

 

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