突然の激しい雷雨に、ロッソさんも私もすっかり青ざめてしまっていた。
ロッソ「……しかし、俺が皆を守らなければ……誰が守る……」
自身を叱咤するように、ロッソさんが震えるつぶやきを漏らす。
〇〇「無理しないでください、ロッソさん」
堪らずに、ロッソさんの傍に寄り添った。
ロッソ「無理だろうとなんだろうと、守らなければ……っ。 他に誰が守ってくれるってんだ」
悔しげに言いながら柱を握りしめるその手は、ずっと小刻みに震えている。
(ロッソさん……雷が怖いの? それとも……また仲間を失うのが、怖いの?)
〇〇「ロッソさん、船はまだしっかりと保たれています。 私もここにいます……きっと大丈夫です」
ロッソ「っ……」
ロッソさんの震える手に、そっと自分の手を重ねる。
〇〇「もう少し……ロッソさんが落ち着くまで……こうさせてください」
それからゆっくりと、両手で力強くその手を握りしめた。
ロッソ「〇〇……」
弱々しい瞳が私を見る。
怯えたその瞳と血の気を失った唇が、私の胸を締めつけた。
ロッソ「〇〇……」
求めるように名前を呼ばれ、私は彼に優しく笑いかけた。
〇〇「はい、私はここにいます」
ロッソ「ああ……」
ロッソさんが軽く瞳を伏せる。
いつもは強く明るいその顔が、今ばかりはひどく頼りない。
(どうかこのまま、嵐が通り過ぎてくれますように……)
そう願い続ける他、私にはできなかった…―。
…
……
それからしばらく……
願いが通じたのか、嵐は過ぎ去り、海は穏やかさを取り戻し始めた。
(よかった……)
安堵のため息をこぼしながら、ロッソさんの手を握りしめていた力をそっと緩める。
ロッソさんは、所在なさげに視線を彷徨わせると……
ロッソ「すまなかった……」
ぽつりと、言葉を吐き出した。
〇〇「そんな……謝らないでください」
ロッソ「いや……俺はどうしても、あの日の記憶が抜けずに……今も雷に怯えているんだ。 情けない男だ……」
〇〇「情けないだなんて……」
何か言葉がかけられればと探している間に、ロッソさんが力なく首を左右に振る。
ロッソ「仲間を失ったあの日は、今日のような嵐で、激しい雷が鳴っていた……。 あの時、これくらいのしけなど、どうってことねえと息巻いたのは俺だ……。 俺が皆を……殺しちまった……」
〇〇「そんなこと……言わないでください」
思わず、再度きつく手を握りしめると……
〇〇「っ……!」
ロッソさんが、すがりつくように私に抱きついた。
きつく抱きしめたまま、まるで呪文のようにつぶやきを漏らす。
ロッソ「許してくれ……どうか俺を、許してくれ……」
心からの苦しみと贖罪に、胸が押し潰されそうに苦しい。
堪らずに私は、ロッソさんを守るようにきつく抱きしめ返した。
それが、彼への呪いだとも気づかずに…―。