あの嵐の日から、数日・・・―。
(あれからロッソさん、何か悩んでるみたい・・・・・・)
声をかけようとしても、いつも一人で考えさせてくれ、と部屋にこもってしまう。
仕方なく私はロッソさんから離れ、船の手伝いなどをして過ごしていた。
(ロッソさんの力になれればいいんだけど・・・・・・)
その日も、そんなことを考えながら、厨房でジャガイモを剥く手伝いをしていると・・・―。
慌しい足音が、古い船内で響いた。
(? 何かあったのかな?)
その場にいた皆と、顔を見合わせた時・・・・・・
ロッソ「皆聞いてくれ! 俺はついに決めたぞ・・・・・・!」
興奮に頬を上気させたロッソさんが、厨房で駆け込んできた。
乗組員「ど、どうされたんです」
ロッソ「俺は覚悟を決めた。○○も聞いてくれ」
○○「は、はい」
(なんだろう?)
ロッソさんは、大きく息を吸い込んで・・・―。
ロッソ「俺はこの船を、修理することに決めた!」
○○「え・・・・・・!」
その場にいた全員が、ロッソさんの言葉にどよめく。
船員1「修理って・・・・・・」
船員2「あ、あの、急にどうされたんですか?」
ロッソ「どうしたもこうしたもねえ。この前の嵐と・・・・・・こいつのおかげで目が覚めた」
○○「っ・・・・・・!」
ロッソさんが不意に、ぐっと私の肩を抱き寄せた。
何の前触れもなくロッソさんの逞しい腕に抱き寄せられ、大きく鼓動が跳ねる。
ロッソ「俺はもう絶対に、誰も死なせねえからな。 そのつもりでしっかり貴様らも、俺についてこいよ!」
船員1「な、なんかよくわかんねえけど・・・・・・」
船員2「やったーー!」
船員達から、割れんばかりの歓声が上がる。
にかっと笑うロッソさんのその笑顔は、これまでで一番清々しいものに見えた。
すぐ傍で、心からの笑みを咲かせてくれている・・・・・・
(よかった・・・・・・すごく嬉しい)
涙がにじみそうになるほどの感激を覚えながら、私はその腕に抱かれていたのだった・・・―。
・・・
・・・・・・
大きな街へ寄り、バレナロッサ号は修理へと預けられた。
ロッソ「・・・・・・」
ドックへ入ったバレナロッサ号を、ロッソさんはただじっと見つめている。
○○「ロッソさん・・・・・・」
ロッソ「ああ、大丈夫だ。ちょっと、挨拶してただけだよ。 ちゃんと強くなって戻ってこいって。それに・・・・・・」
○○「?」
それからしばらく・・・―。
・・・
・・・・・・
ロッソ「・・・・・・すげえ、見違えたな」
立派に美しく修理されたバレナロッサ号を見上げていると、ロッソさんがいつの間にか私の傍に立っていた。
○○「はい。とても素敵になりました。 これでもう、どんな航海も乗り越えられそうですね」
ロッソ「ああ、その通りだ」
こつん、と肩と肩が触れ合った。
小さく鼓動が跳ねて、反射的にロッソさんを見上げた瞬間・・・―。
○○「っ・・・・・・!」
しっかりと肩を抱き寄せられ、すっぽりとロッソさんの腕に包まれた。
もう何度か感じた、心地よいその腕の温かさの中・・・・・・
速まる鼓動を持て余しながら、ゆっくりと深呼吸をする。
(なんだか恥ずかしい・・・・・・でも・・・・・・私、この腕に包まれてると嬉しくて)
ロッソ「○○・・・・・・ありがとな」
○○「え・・・・・・? 私は何も・・・・・・」
ロッソ「いや、○○のおかげだ。 ○○のおかげで、今回決心することができた・ なんか知らねえけど・・・・・・お前はすげえ奴だよ」
まばゆい太陽に目を細める、少しだけ粗野なその横顔が、とても好きだと思えて・・・―。
吸い寄せられるように、じっと見つめてしまう。
すると、私を抱く手にさらにぐっと力がこもって・・・・・・
ロッソ「俺はずっと・・・・・・この船の形を変えることで、あいつらを裏切ることになると思ってた。 だけど・・・・・・でも、今残ってる仲間のことも、もっともっと大切にしていきてえんだ。 絶対にもう誰も・・・・・・失いたくねえ」
ロッソさんの目尻にきらりと光るものを見たような気がして、私の胸もじわりと熱くなり、込み上げてくるものがある。
ロッソ「あのボロボロなままの船じゃ・・・・・・守ることができない時が来るかもしれねえ。 それよりは・・・・・・」
○○「私は・・・・・・船の形が変わっても、きっと、ロッソさんの仲間の魂はこの船に宿っていると思います。 そしてきっと・・・・・・綺麗になったバレナロッサ号を喜んでくれてるんじゃないかなって」
言葉に詰まるロッソさんに、私は今の思いを正直に伝えた。
するとロッソさんは、今にも泣き出しそうな顔でくしゃりと笑って・・・・・・
ロッソ「そうだな・・・・・・ありがとう、○○のおかげで、俺は前に進める」
○○「そんな・・・―。 っ・・・・・・」
しっかりとした言葉と共に届けられたのは、温かな口づけで・・・―。
ロッソ「俺と、バレナロッサと。一緒に生きてくれ」
夕陽を浴びながら、もう一度深く口づけが落とされる。
生まれ変わった船が、私達を優しく力強く・・・・・・見守ってくれているような気がした・・・―。
おわり。