激しい雨が船を打ちつけ、雷鳴が私達をあざ笑うかのように轟いている。
(船から落とされる・・・・・・!)
大きく揺れた船体から振り落とされそうになった私に差し出されたものは・・・―。
ロッソ「○○・・・・・・!」
(ロッソさん!)
ロッソさんの力強い腕が、私に向かってめいっぱい伸ばされている。
それを必死で掴もうと、私も必死に手を伸ばす。
ロッソ「・・・・・・っ」
ほんのわずかに指先が触れた、その瞬間・・・―。
ロッソ「しっかり掴まれ!」
ロッソさんの逞しい手が、ぐっと私の体を引き寄せる。
そのまましっかりと・・・・・・私の体は彼の腕に抱きとめられた。
○○「ロッソさん・・・・・・!」
ロッソ「しっかり掴まっていろ! 俺が命綱だ!」
ロッソさんがそう言って、私を安心させてくれるように笑う。
片手でしっかりと私を抱き、もう片方の手で船を操り始めた。
ロッソ「絶対に誰も死なせねえ! もう二度と・・・・・・っ!!」
鬼気迫るその姿に、私も必死になりロッソさんの体にしがみつく。
かたい筋肉が強張り、重いであろう操縦桿を動かしていく。
○○「ロッソさん・・・・・・!」
ロッソ「っ・・・・・・重っ・・・・・・!」
○○「・・・・・・っ!」
気づけば私も勝手に体が動き、一緒に操縦桿を握りしめていた。
ロッソ「○○・・・・・・」
ロッソさんが驚いた顔で私を見る。
○○「私も手伝います・・・・・・!」
ふっと、頼もしい笑みが私に向けられる。
ロッソ「おう! しっかり頼むぜ!」
○○「はい・・・・・・!」
その後も、ロッソさんは的確な指示を船員の方達に出しながら、自身は船を操り、大波を乗り切っていく。
(お願い。どうかこのまま無事に・・・・・・!)
・・・
・・・・・・
それから数時間の奮闘は続き・・・・・・
やがて海は緩やかに落ち着き始めた・・・―。
ロッソ「・・・・・・はぁ・・・・・・よかった」
肩で大きく息をしながら、疲弊した船員の方達を見回し、ロッソさんは噛みしめるようにつぶやいた。
○○「乗り切ったんですね・・・・・・」
ロッソ「ああ、誰も失わなかった・・・・・・誰一人として、失わなかったぞ・・・・・・」
やや震える声で言ったロッソさんは、いつも強い瞳にうっすらと涙を浮かべ私を見た。
そのまま・・・・・・
ロッソ「○○のことも、失わずに済んだ・・・・・・!」
叫ぶようにそう言い、私をきつく抱きしめた。
縋りつくような腕の強さに、胸が締め付けられるような心地になる。
○○「私は・・・・・・ロッソさんの前から絶対に消えたりしません」
(だからどうか、安心して・・・・・・)
その一心で、そう言うと・・・・・・
ロッソ「何の根拠があってそんなことを・・・・・・」
小さく消え入りそうな声で言った後、ロッソさんはふっと小さく笑った。
抱きしめる腕の力を緩め、私のことをまっすぐに見つめる。
ロッソ「だけど、船が難破しそうだってのに俺に協力したり、いい度胸してやがる。 信じてやってもいいぜ、その言葉」
○○「ロッソさん・・・・・・」
ロッソ「海賊に、向いてんじゃねえのか?」
○○「え・・・・・・?」
ロッソ「くくっ、冗談だ。半分本気だがな」
最後にはいつもの調子で、少しからかうようにそう言ってのけて・・・・・・
ロッソさんは最後の最後でひと言・・・―。
ロッソ「俺も、覚悟を決める時が来たってことか・・・・・・」
そう、つぶやいたのだった・・・―。