第5話 嵐の前の静けさ

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ロッソ『ああ、あいつらとの思い出がたくさん詰まってるこの船は……。 姿こそないが、魂が乗船している。そいつを壊せば……。 今度こそ本当に、あいつらを見捨てたことになっちまう』

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ロッソさんの言葉が、何度も私の頭を過ぎる…―。

(ロッソさんは、ずっとこのままこの船で……?)

何度も繕われた後のある帆や、腐食してきている床……

それらを見ていると、複雑な気持ちが込み上げてくる。

(このままじゃ、いつかこの船は沈んで…―)

そう考え、さっと冷たいものが背筋に走った時…―。

ロッソ「なんだー? 深刻な顔しやがって。船旅にそんなしけた顔は似合わねえぞ」

〇〇「っ……!」

突然、耳に響いた明るい声に、びくりと体を震わせてしまう。

ロッソ「おい、やめろよ。幽霊でも出たようなその反応」

そう言いながら、ロッソさんがこつんと私の頭に何かを置いた。

触れてみると……

〇〇「……リンゴ?」

ロッソ「ああ、剥いてくれ。俺は、この海図を読むのに忙しいからな!」

ロッソさんは、大仰な仕草で大きな海図を広げて見せる。

〇〇「……? わかりました」

不思議に思いながらも、そのままナイフを滑らせていると……

ロッソ「おお! いいナイフ使いじゃねえか。どうだ? この海賊船の専属シェフにでもなるか? ああ……俺専属、でもいいぞ!?」

〇〇「っ……! も、もう、またからかってるんですか?」

ロッソ「くくっ……〇〇がしみったれた顔してっからだろ。 そのリンゴでも食って明るくなれ」

ぽん、と海図を放り投げて、ロッソさんはその場に寝転がる。

(励ましてくれたんだ……)

その心遣いが嬉しいのに、なぜだかきゅっと胸が苦しくなる。

(……言ってみよう)

〇〇「ロッソさん」

ロッソ「あー? リンゴなら口に放り込んでくれ」

〇〇「それもですが……この船のことです。 ロッソさんの仲間の人達も、こんなふうに船に縛られてほしいとは思っていないのでは…―」

ロッソ「だから、俺にあいつらを裏切って、船から降りろって?」

〇〇「っ……!」

突然、鋭くなった物言いに、びくりとしてロッソさんを見る。

深い哀しみに揺れる瞳が、私を映し出していた。

〇〇「……そうです。でも、裏切られただなんて誰も…―」

ロッソ「黙れ」

〇〇「っ……」

厳しい声音を発して、ロッソさんが立ち上がった。

ロッソ「その話はもう二度とするな。 俺はこの船を守り続ける。あいつらのためにも……」

〇〇「あ……」

ロッソさんは、悔しげに唇を噛みしめると、そのまま立ち去ってしまった…―。


……

その後も何度か、ロッソさんに話しかけようとしても…―。

〇〇「あの、ロッソさ…―」

ロッソ「……」

ロッソさんは、私を避けるようになってしまっていた。

……

(どうしたらいいんだろう)

潮風に当たりながら、広い海をただ見つめる。

(ロッソさんにとって、ずっとこの船のままでいることが幸せなのかな?)

そんなことを考えていると…―。

船員1「〇〇さん……」

振り返ると、船員の方達が揃っていた。

船員2「あの……船長を、なんとか説得してやってくれませんか」

〇〇「え……」

船員3「もちろん俺達だって、死んだ仲間のことを忘れるつもりはありません。でも……。 お頭、いつまでたっても悲しそうに笑うんです。それに船だってもう限界だ」

船員1「このままだと…―」

〇〇「皆さん……」

船員の方達が、ロッソさんを思う気持ちが伝わってくる。

(やっぱり……このままじゃ駄目だ)

船員1「お頭、頑固だけど……〇〇さんの話なら聞いてくれるかもしれません」

〇〇「わかりました……やってみます」

そうして私は、ロッソさんの部屋にやってきた。

〇〇「ロッソさん……お願いです。私の話を聞いてくれませんか」

心から真剣に、ロッソさんに訴えかける。

長く感じられる沈黙の時が流れ、やがて……

ロッソ「わかった。ふっ……そんな強い目を見たのは久々だ。 そういう目をする人間は、嫌いじゃねえよ」

〇〇「ロッソさん……!」

けれど、その時…―。

小雨だった雨脚が急に激しくなり、雷が激しく鳴り響いた…―。

 

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