今日、ぼくは人生で初めて働き過ぎた。
そのせいか、ぼくの体はびっくりして高熱を出してしまった。
(熱いし、だるいし、動きたくない……)
ぼんやりとする意識の中、看病をしてくれている○○ちゃんが傍にいることを感じる。
アケディア「ぼくが寝てる間も、この部屋にいてくれなきゃ……やだよ」
○○「うん、大丈夫。ずっと傍にいるよ」
その声はとても優しくて…―。
ぼくは、安心して深い眠りへと落ちていった。
目が覚めると、部屋は真っ暗だった。
ベッドの脇で、○○ちゃんが小さな寝息をたてている。
(さっきより、体がだるくない……)
氷枕は、ひんやりと冷たくて気持ちいい。
(○○ちゃんが取り替えてくれたんだ……)
(約束を守って、ずっと傍にいてくれたんだ)
○○ちゃんの髪に、そっと指を絡めてみる。
(○○ちゃん、ぼくの病気が治ったら帰っちゃうのかな?)
アケディア「……っ!」
突然、胸の奥がぎゅっと痛くなった。
(やだ……!)
(○○ちゃんと離れ離れになっちゃうなんて、考えられない!)
○○ちゃんが、ぼくの前からいなくなってしまうことを考えると、息もできなくなる。
(こんな辛い思いなんて、したくない……)
感情がざわざわと騒がしい…―。
ぼくはちっとも落ち着くことができない。
(こんなのやだ。ぼくは何もしたくないし、疲れることは面倒……)
そう思いながら心を落ち着かせようとしてみるものの、全く効果がない。
けれど……
(……そうだもしも○○ちゃんが、ずっとここにいてくれたら?)
考えただけで、胸の苦しみが取れていく。
アケディア「それがいい。○○ちゃんは、ずっとここにいたらいいよ」
かわいい寝顔に、そっと話しかける。
○○「う……ん」
(まずい、起きちゃったかな)
○○「アケディアくん……よくなりますように……」
アケディア「え……?」
(寝言?)
(寝言でも、ぼくのことを心配してくれているなんて……)
もう一度、○○ちゃんの髪の毛に、触れようとした瞬間…―。
○○「ん……」
○○ちゃんが、目を覚ましてしまった。
ぼくは慌てて、寝たふりをする。
○○「やだ、私……寝ちゃったんだ。 アケディアくん、熱下がったかな?」
ぼくの額に、○○ちゃんの柔らかな手のひらが触れた。
思わず声を出してしまいそうなのを、ぐっと堪える。
○○「うん、だいぶ下がったかな。よかった」
(ぼくのこと、本当に心配してくれてるんだ……)
○○ちゃんは、もう一度氷枕を取り替えてくれる。
氷枕は冷たくて気持ちよくて……―。
ぼくは、またぐっすり眠れそうな気がした。
(○○ちゃん。ぼくは決めたよ)
(この部屋から、ぼくはもう二度と出ない)
(もちろん、きみも一緒にね)
…
……
翌朝、ぼくはすっかりよくなった。
だけど、ぼくはベッドから起きようとは思わない。
アケディア「○○ちゃん、どこに行くの?」
部屋を出て行こうとする○○ちゃんの服の袖を、ぎゅっと握りしめる。
○○「飲み物持ってこようかなって思って……」
アケディア「そんなの必要ない。○○ちゃんは、ぼくの傍にずっといて……」
彼女の瞳に、戸惑いの色が浮かぶ。
だけど、ぼくはこの手を離そうとは思わない。
アケディア「そうだ、○○ちゃんもこの部屋に住みなよ」
○○「えっ……」
アケディア「だって離れ離れになっちゃうと会いに行くのも大変だし、それに手紙も。字なんか書きたくないし。 ここに一緒にいれば、そんな面倒なこともないでしょ?」
なかなか頷いてくれない○○ちゃんがじれったくて、ぼくは彼女の顔を覗き込む。
(……絶対楽しいのに、どうして?)
アケディア「なんで? 嫌?」
○○「嫌っていうより……」
○○ちゃんは、なかなか首を縦に振ってくれない。
(こうなったら、最後の手段だ)
アケディア「じゃあ、一生ご飯食べない」
ぼくは、○○ちゃんが困りそうなことを言ってみる。
○○「食べなきゃ、だめだよ」
○○ちゃんは、心配そうにぼくの顔を覗き込む。
わざとふてくされたふりをして、ぼくはベッドの中に深くもぐった。
(ベッドの中の世界は、すごく気持ちいいのに……)
(その素晴らしさを教えてあげる)
ぼくは、○○ちゃんの腕を掴んでベッドの中に引き込む。
○○「……!」
アケディア「ね、ベッドの中って気持ちいいでしょ?」
(この柔らかな世界でずっと……)
(いつまでも幸せな時間を過ごしたいんだ)
この世界では、ぼく達は二人だけになることができる。
心地よく、柔らかく、怠惰な世界へ…―。
(ようこそ、○○ちゃん)
おわり。