空高く昇った太陽が、窓にまばゆい日差しを落としている…-。
アケディアくんのベッドの脇で朝を迎えた私の目に昼の光は少しまぶしすぎて、思わず目をすがめた。
(すっかり熱が下がってよかった……)
アケディアくんの顔色も良く、私はほっと胸を撫で下ろす。
(もう大丈夫と先生も言っていたのに……)
アケディア「う~ん……」
アケディアくんはベッドに沈み込み、起き上がる気配はない。
○○「目が覚めた? 体調はどうかな」
アケディア「……だいぶ前から起きてたよ~」
○○「どうしたの? まだどこか体調悪い?」
アケディア「悪くないけど……動きたくない」
そう言って、アケディアくんは鼻の上まで毛布を引き上げてしまう。
アケディア「やっぱり、頑張るなんて、ぼくらしくなかったんだ……だから熱も出たんだし」
○○「アケディアくん……」
アケディア「そうだ、決めた! ぼくはもう、一切無理はしない」
(えっ……!?)
声高らかに宣言し、アケディアくんはすっきりしたように微笑みを浮かべる。
(一切無理をしないって……どれくらい?)
アケディアくんの体調を心配した従者さんやメイドさん達が、部屋へとやってきた。
従者「アケディア様、お加減は如何でしょうか?」
アケディア「悪くないけど……もう公務はお前達に任せたから」
メイド「朝食はこちらにおいておきますね」
アケディア「なんか食べるのも……面倒だなぁ……」
アケディアくんは話すことも億劫なようで、皆から顔を背けると、布団を頭から被ってしまった。
(アケディアくん、前よりも動かなくなっている……!?)
メイド「お食事をとらないと、お体に障りますのに……」
従者「アケディア様、前より無精になられていますね……」
従者さんとメイドさん達も、アケディアくんのことが心配そうで…-。
…
……
従者さんとメイドさん達が部屋を出て行った後も、アケディアくんはベッドの中に埋もれていた。
○○「アケディアくん、ご飯食べた方がいいよ」
アケディア「ご飯……面倒くさい……代わりに食べて」
(それは無理なんじゃないかなあ……)
○○「ご飯食べないと体に悪いよ」
アケディア「ううん……いいや……」
(朝から何も口にしていないのに……)
(もしかしたら、飲み物なら飲んでくれるかな?)
メイドさんに相談をしに、部屋を出ようとすると…-。
○○「……!」
アケディアくんは、私の服を掴んで離さない。
アケディア「○○ちゃん、どこに行くの?」
○○「飲み物持ってこようかなって思って……」
アケディア「そんなの必要ない。○○ちゃんは、ぼくの傍にずっといて……」
彼の瞳は、守ってあげたくなるほど力がなくて…-。
アケディア「そうだ、○○ちゃんもこの部屋に住みなよ」
○○「えっ……」
アケディア「だって離れ離れになっちゃうと会いに行くのも大変だし、それに手紙も。字なんか書きたくないし。 ここに一緒にいれば、そんな面倒なこともないでしょ?」
(アケディアくんのことは心配だけど……この部屋にずっとは……)
首を縦に振ることができずにいると、アケディアくんが私の顔を覗き込んできた。
アケディア「なんで? 嫌?」
○○「嫌っていうより……」
アケディア「大体、皆働き過ぎ。この部屋でのんびり毎日暮らすのは楽しいよ。面倒なことも嫌なことも起きないし」
○○「でも……」
(それだと、行動範囲がどんどん狭まって……)
(このままでは、アケディアくんの世界は、この部屋だけになってしまう)
戸惑いを隠せずにいると、アケディアくんは拗ねたように頬を膨らませた。
アケディア「じゃあ、一生ご飯食べない」
○○「食べなきゃ、だめだよ」
アケディア「食べる気……なくなった」
アケディアくんは、ふてくされたようにベッドの中に深くもぐりこんでしまった。
○○「ちょっと、アケディアくん……」
布団を取ろうとした瞬間…-。
○○「……!」
腕を強く掴まれ、私も布団の中へと引きこまれた。
布団の中で、アケディアくんに見つめられる。
アケディア「ね、ベッドの中って気持ちいいでしょ?」
(すごく温かい……)
○○「……」
温かな布団の中で、彼の体温が伝わってくる。
(このままこの中で過ごすのもいいかもしれないって思えてきちゃう……)
柔らかな世界は、私の感覚を狂わせる…-。
アケディア「ぼくは、きみが傍にいてくれれば……なんにもいらない。 欲しいものなんか、今まで何もなかった。だけど、○○ちゃんだけは欲しい」
私の手を掴む彼の力が、どんどん強くなっていく。
彼の瞳から逃れることができない。
いっそ、このままこの世界に身を埋めてしまいたくなってしまう…-。
(でも……)
○○「わかった……とりあえずご飯は食べようね」
彼は、口をすぼめて諦めたように視線を逸らす。
アケディア「食べさせてくれるなら……食べる」
(こんな顔で甘えられたら……許すしかなくなっちゃう……)
○○「……うん、いいよ」
私は彼の手を引いて、なんとか起き上がらせた。
ベッドの中だけの心地よい世界に溺れてしまう前に…-。
おわり。