ヒビが入り聖水が漏れ出た水鏡は、夕方になっても修復されることはなかった…-。
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ユーノ『我は神の子ユーノ。神の代弁者である』
ユーノ『水鏡を破壊したのは、ユーノの心。その心が修復されない限り、水鏡も修復されることはない』
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(あれは、どういう意味なんだろう……)
(ユーノさん、何かに悩んだり心を痛めているということ……?)
ユーノさんが目を覚ましたことを使用人の方から聞いた私は、彼の部屋を訪れた。
〇〇「失礼します……」
扉を開くと、ユーノさんはベッドで上体を起こしたまま、窓の外を見つめていた。
ユーノ「……」
〇〇「あの、お加減は……」
ユーノ「……〇〇様」
ユーノさんが、ゆっくりとこちらを振り向く。
けれどその瞳はうつろで、無理矢理浮かべた笑顔はとても弱々しい。
(……大丈夫なのかな)
そう思うのに、近づき難い雰囲気を感じてなぜか上手く声をかけられない。
〇〇「あの……お水、飲みますか?」
ユーノ「……」
なんとか言葉を紡ぐ私から、ユーノさんは目を逸らした。
〇〇「ユーノさん、あの…―」
ユーノ「神は、水鏡を壊したのはわたしの心だと告げました」
ユーノさんは低い声でぽつりぽつりとつぶやく。
(本当に……ユーノさんが)
ユーノ「わたしのせいで水鏡が割れるなど、アフロスの王族として許されないことです」
〇〇「そんなことありません。 ユーノさんのせいで水鏡が割れたなんて……」
ユーノ「神託は絶対です。これは目を逸らすことのできない、事実なのです」
〇〇「ユーノさん……。 何か、困ったことや心を苦しめていることがあるということですね? 私でよければ、お話を聞かせていただけませんか?」
ユーノ「……」
ユーノさんはやや逡巡するような様子を見せた後、優しい笑みを湛えた。
ユーノ「いいえ、これはわたしの問題です」
〇〇「でも……」
ユーノ「……ご足労いただいておいて恐縮なのですが。 儀式は中止となりました」
〇〇「中止……ですか?」
ユーノ「はい。ですので……申し訳ありませんが、少し寝かせていただけますか?」
〇〇「……」
ユーノさんは私の返事を待たず、ベッドに体を横たえた。
そして私から言葉を拒むように、固く目を閉じてしまった。
(どうして……)
何も言えず、しばらくその美しい横顔を見つめてしまう。
けれど閉じられた瞳から拒絶を感じた私は、ゆっくりと踵を返したのだった…-。