ユーノ「あれは……運命の相手を教えてくれる水鏡です。 運命の相手が近くにいれば水面が光を放ち。 水鏡の前に二人で立った時、隣にいる相手が運命の相手であれば、その姿が映し出されます」
神殿に差し込む穏やかな光に、鏡の水面が美しく反射している。
(運命の相手を知るのは、少し怖いかも……)
揺らめく水鏡を見つめながら、そう思っていると…-。
ユーノ「……〇〇様」
ユーノさんが静かな声色で、私に問いかけた。
ユーノ「髪が告げる運命の相手……君は信じますか?」
〇〇「……信じます。 けれど、だからこそ……それを知ることが怖くて」
ユーノ「……」
〇〇「あ……ごめんなさい。ユーノさんは神様からのお告げを聞く人なのに」
ユーノ「いいえ」
目をゆっくりと閉じて、どこか満足そうにユーノさんが微笑む。
〇〇「けれど、運命の人だって言われた人と想い合えたら……それは素敵なことだと思います」
ユーノ「……そうですか」
笑みを湛えたまま、ユーノさんは長いまつ毛を伏せた。
(ユーノさん……?)
ユーノ「わたしは神に仕える身……神のご意志こそがわたしのすべて。 わたしの運命は……そう決まっているのです」
綺麗な指が私に伸ばされ、そのまま触れられるかと思ったけれど……
〇〇「ユーノ……さん?」
ユーノ「……」
伸ばした手を引っ込めて、ユーノさんは深く息を吐いた。
ユーノ「〇〇様」
〇〇「はい……?」
ユーノ「こうして君の笑顔を見ていると、とても苦しいのです……」
〇〇「え?」
ユーノさんはそっと目を逸らしてから、力なく口の端を引いた。
ユーノ「いえ、わたしとしたことが……」
(ユーノさん……? どうしたんだろう)
ユーノ「おかしなことを言ってしまいました。申し訳ありません」
〇〇「……いえ」
ユーノさんは丁寧に会釈をし、神官の方達の元へと歩いて行く。
(いったい……?)
後ろ髪を引かれる思いだったけれど、やがて私はその場を後にした…-。
…
……
翌日…-。
予定の時間より早く神殿を訪れた私は、外でユーノさんを待っていた。
(少しだけでも話せないかな?)
(昨日のユーノさんの様子がどうしても気になって……)
少しずつ集まり始める王族達の中で、私はじっと神殿の中を見つめていた。
??「あの」
声のした方を見ると、煌びやかな王服に身を包んだ男性が微笑んでいる。
貴族の男性「お一人ですか?」
〇〇「はい、そうですが……」
貴族の男性「その装いは……貴方もこの後の儀式に?」
〇〇「はい」
儀式の正装として、私は純白のドレスを身にまとっていた。
貴族の男性「よろしければ、ご一緒させていただけませんか?」
〇〇「え……?」
貴族の男性「儀式を前に落ち着かなくて……情けない話です」
困ったように笑う男性に向かって、私は慌てて首を横に振る。
〇〇「すみません……待っている人がいて」
貴族の男性「では、その方がおいでになるまで……少しだけで構いません。いかがですか
?」
私はもう一度神殿の中を見つめる。
そこには、最後の準備のためか、忙しそうに神官の方達が駆け回っていた。
(ユーノさんはまだ……忙しくしてるよね)
〇〇「では……少しの間だけ」
男性「ありがとうございます。お優しい姫君」
男性が穏やかに微笑む。
雲間からこぼれる薄い光が、神殿に降り注いでいた…-。
…
ユーノは一人、神殿の廊下から外を見つめていた。
視線の先には、貴族の男性と話をしている〇〇の姿がある…-。
ユーノ「〇〇様……?」
笑顔を浮かべる〇〇を見ると、ユーノの顔が苦しげに歪む。
ユーノ「……」
杖を掴む力がひとりでに強くなり、額にもう片方の手をあてる。
ユーノ「わたしは……何を考えて……」
誰もいない薄暗い廊下で、ユーノは一人、立ち尽くしていた…-。