第2話 ユーノの苦悩

ユーノ「あれは……運命の相手を教えてくれる水鏡です。 運命の相手が近くにいれば水面が光を放ち。 水鏡の前に二人で立った時、隣にいる相手が運命の相手であれば、その姿が映し出されます」

 

神殿に差し込む穏やかな光に、鏡の水面が美しく反射している。

(運命の相手を知るのは、少し怖いかも……)

揺らめく水鏡を見つめながら、そう思っていると…-。

ユーノ「……〇〇様」

ユーノさんが静かな声色で、私に問いかけた。

ユーノ「髪が告げる運命の相手……君は信じますか?」

〇〇「……信じます。 けれど、だからこそ……それを知ることが怖くて」

ユーノ「……」

〇〇「あ……ごめんなさい。ユーノさんは神様からのお告げを聞く人なのに」

ユーノ「いいえ」

目をゆっくりと閉じて、どこか満足そうにユーノさんが微笑む。

〇〇「けれど、運命の人だって言われた人と想い合えたら……それは素敵なことだと思います」

ユーノ「……そうですか」

笑みを湛えたまま、ユーノさんは長いまつ毛を伏せた。

(ユーノさん……?)

ユーノ「わたしは神に仕える身……神のご意志こそがわたしのすべて。 わたしの運命は……そう決まっているのです」

綺麗な指が私に伸ばされ、そのまま触れられるかと思ったけれど……

〇〇「ユーノ……さん?」

ユーノ「……」

伸ばした手を引っ込めて、ユーノさんは深く息を吐いた。

ユーノ「〇〇様」

〇〇「はい……?」

ユーノ「こうして君の笑顔を見ていると、とても苦しいのです……」

〇〇「え?」

ユーノさんはそっと目を逸らしてから、力なく口の端を引いた。

ユーノ「いえ、わたしとしたことが……」

(ユーノさん……? どうしたんだろう)

ユーノ「おかしなことを言ってしまいました。申し訳ありません」

〇〇「……いえ」

ユーノさんは丁寧に会釈をし、神官の方達の元へと歩いて行く。

(いったい……?)

後ろ髪を引かれる思いだったけれど、やがて私はその場を後にした…-。

……

翌日…-。

予定の時間より早く神殿を訪れた私は、外でユーノさんを待っていた。

(少しだけでも話せないかな?)

(昨日のユーノさんの様子がどうしても気になって……)

少しずつ集まり始める王族達の中で、私はじっと神殿の中を見つめていた。

??「あの」

声のした方を見ると、煌びやかな王服に身を包んだ男性が微笑んでいる。

貴族の男性「お一人ですか?」

〇〇「はい、そうですが……」

貴族の男性「その装いは……貴方もこの後の儀式に?」

〇〇「はい」

儀式の正装として、私は純白のドレスを身にまとっていた。

貴族の男性「よろしければ、ご一緒させていただけませんか?」

〇〇「え……?」

貴族の男性「儀式を前に落ち着かなくて……情けない話です」

困ったように笑う男性に向かって、私は慌てて首を横に振る。

〇〇「すみません……待っている人がいて」

貴族の男性「では、その方がおいでになるまで……少しだけで構いません。いかがですか
?」

私はもう一度神殿の中を見つめる。

そこには、最後の準備のためか、忙しそうに神官の方達が駆け回っていた。

(ユーノさんはまだ……忙しくしてるよね)

〇〇「では……少しの間だけ」

男性「ありがとうございます。お優しい姫君」

男性が穏やかに微笑む。

雲間からこぼれる薄い光が、神殿に降り注いでいた…-。

ユーノは一人、神殿の廊下から外を見つめていた。

視線の先には、貴族の男性と話をしている〇〇の姿がある…-。

ユーノ「〇〇様……?」

笑顔を浮かべる〇〇を見ると、ユーノの顔が苦しげに歪む。

ユーノ「……」

杖を掴む力がひとりでに強くなり、額にもう片方の手をあてる。

ユーノ「わたしは……何を考えて……」

誰もいない薄暗い廊下で、ユーノは一人、立ち尽くしていた…-。

 

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