星々の光が連なり、遠い空へ限りなく続いていく…-。
シュテル「……」
今夜は疲れているはずなのに、なぜか寝つけず、客室のバルコニーから、夜空の星を眺めていた。
(〇〇は、明日の儀式で水鏡の前に立つ……)
(その場で、彼女の運命の相手と出会うことになるかもしれない)
そう考えると、胸の奥が軋むように音を立てた。
シュテル「どうして、こんな気持ちになる……?」
星屑時計の力を使い、神殿の水鏡を直した後……
〇〇の願いも叶えたいという僕の申し出を、彼女は優しく断った。
―――――
〇〇『シュテルさんは勘違いをしています。私は運命の相手を知りたいんじゃありません』
シュテル『〇〇……?』
〇〇『私は、ただ…-。 運命の相手だったらいいなと……そう想う人がいるだけです』
―――――
(彼女の心には、すでに他の誰かがいるーー)
その事実が、苦しいほどに僕の胸を締めつけていた。
(〇〇の幸せを願っていたはずなのに)
(やはり僕は、彼女のことを……)
心の乱れと呼応するように、疲れた体が軽いめまいを覚え……
シュテル「……」
バルコニーの手すりにもたれて深く息を吐き、静かに目を閉じた。
(〇〇……)
彼女への想いに焦がれながら、星々の瞬きに耳を傾けた、その時……
優しい祈りの声が、僕の耳をかすめた。
シュテル「今の声は……?」
声の主を確かめるように、もう一度耳を澄ませる。
『誰よりも人々の幸せを願うシュテルさんに、星のご加護をーー』
(間違いない……この声は)
哀しいほどに切ない祈りが、広い夜空に満ちていく。
シュテル「〇〇……」
切なる願いは、星々を伝って僕の元へ届けられた……
…
……
〇〇「シュテルさん、もうお休みになったのでは?」
彼女を訪ねた僕を見て、〇〇は大きく瞳を見開いた。
シュテル「いや……君の願いを叶えに来た」
〇〇「私の願い……?」
シュテル「行こう、〇〇」
僕は彼女の手を取り、二人きりの星空へと誘った。
〇〇「シュテルさん……私、とても幸せです」
〇〇は、これ以上自分のために、僕の力を使わせたくないと願った。
(そんな彼女の想いを受け取らず、僕は……)
(彼女の笑顔を見たい一心で、力を使うことに迷いはなかった)
けれど……
星空の下、もう一度〇〇と向かい合う。
シュテル「だが……もし君が、僕の幸せを祈ってくれるなら…-。 僕は、自分の願いを叶えてもいいか?」
〇〇「シュテルさんの願い……?」
シュテル「ああ……一生に一度の願いだ。 生まれて初めて、自分のために願う。 僕は、君の運命の相手になりたい」
そう告げた後、〇〇に赤いゼラニウムの花束を差し出す。
シュテル「水鏡は必要なかった。 今、僕の心は君だけを映しているから」
〇〇の瞳が、純粋な驚きに揺れた後……
彼女は嬉しそうに笑みを浮かべ、そっと花束を受け取ってくれた。
シュテル「私の心にも、シュテルさんが映っています。 どうか……私をずっと、シュテルさんの傍にいさせてください」
(〇〇……)
気づけば彼女の腕を引き寄せ、胸の中に閉じ込めていた。
〇〇の頭を抱えるようにして、耳元へ囁きかける。
シュテル「僕は君を泣かせることになるかもしれない……。 でも、この命の光が尽きる時まで、その笑顔を見せてほしい」
〇〇「はい……ずっと傍にいてください」
二人の想いを通い合わせれば、心が深く満たされていく…-。
シュテル「ここで誓いを交わそう。星達が証人だ」
誓いのキスを交わせば、彼女の柔らかな唇が微かに震えた。
すがるように握られた指先に、愛おしさが込み上げる。
幾度か唇を触れさせた後……ゆっくりと体を離し、彼女に腕を差し出した。
〇〇は恥ずかしそうに微笑んで、そっと僕の腕に触れる。
(そうだ……)
星の光を散りばめた純白のベールを、彼女の髪にふわりとかける。
シュテル「〇〇……僕のかわいい花嫁」
彼女への想いは、星空のように果てしなく広がり続け……
(この命尽きようと、決して終わることはない)」
幾千の星々の祝福を受け、二人の未来はどこまでも輝いて見えた…-。
おわり。