過ぎゆく時を奏でる調べのように、星達が儚げに瞬いて見える夜…―。
なんとなく、心がざわめいて眠れなくなった私は、宿舎として案内された宮殿の客室から澄んだ星空を眺めていた。
〇〇「あ、流れ星……」
煌めく流星を見つければ、彼の優しい笑みが頭をかすめる。
(シュテルさん……)
私は星明かりの差し込む窓辺に立ち、夜空の星々に祈る。
(どうか……誰よりも人々の幸せを願うシュテルさんに、星のご加護を……)
時が経つのも忘れ、星に願いを捧げ続けていると……
部屋のドアがノックされ、ふっと意識が戻った。
シュテル「〇〇……僕だ」
聞き慣れた声が、ドアの向こうから私の名を呼んだ。
(えっ、シュテルさん……?)
私は急いでドアを開け、シュテルさんを部屋へ招き入れる。
〇〇「シュテルさん、もうお休みになったのでは?」
シュテル「いや……君の願いを叶えに来た」
〇〇「私の願い……?」
シュテル「行こう、〇〇」
私は戸惑いながらも、シュテルさんの少し冷たい手を取った…-。
…
……
星に乗り夜空を渡ることができる、メテオベールの一族の力……
シュテル「星の国々以外では、ちょっとした移動にしか使えないけれど」
シュテルさんの流星に乗り、美しい星空をゆっくりと漂う。
シュテル「怖いか?」
〇〇「いいえ、少しも」
シュテルさんはふわりと微笑み、私の腰を支えるように引き寄せた。
(シュテルさん、私の願いを叶えるって言ってたけど)
(まさか、力を使って運命の人に会わせてくれるつもりじゃ……)
シュテル「……」
彼の瞳に映る私は、どこか不安げに眉を下げていた。
(でも……私はやっぱり、シュテルさんに生きていてほしい)
シュテルさんを失うかもしれないと、不安に揺れていた心がようやく定まる。
(私の気持ち、シュテルさんに伝えなきゃ)
(シュテルさんの星屑時計が、輝きを失ってしまう前に……)
私はもう一度、シュテルさんに向かって言葉を紡ぎ始める。
〇〇「シュテルさん……私、今とても幸せです」
シュテル「〇〇……?」
〇〇「シュテルさんと肩を並べて、綺麗な街並みを眺めたり。 こんなふうに、二人で星空を散歩できるだけで嬉しくて」
ささやかでも、シュテルさんと過ごす時間が、私の心を優しく満たしてくれる。
〇〇「だから……これ以上、望むことはありません」
シュテル「……」
私の言葉で、シュテルさんの青い瞳が微かにゆらめく。
星達が静かに瞬く中、私は何も言えず……ただ、シュテルさんの言葉を待っていた。
すると……
シュテル「だが……やはり僕は、君の願いを叶えたい」
〇〇「シュテルさん……?」
シュテル「言っただろう。切なる願いは届くんだ」
私を見つめながら、シュテルさんが穏やかな声で告げる。
シュテル「これまで、僕の幸せは人の願いを叶えることより他になかった」
シュテルさんの静かな瞳は、初めて出会った頃を思い出させた。
〇〇「自分の命を削ってでもですか……?」
シュテル「ああ、そうだ」
迷いもなく、まっすぐな言葉が私の胸を刺す。
〇〇「そんな…-」
言いかけた私の唇に、シュテルさんの指がそっと触れる。
シュテル「だが……もし君が、僕の幸せを祈ってくれるなら…-。 僕は、自分の願いを叶えてもいいか?」
〇〇「シュテルさんの願い……?」
シュテル「ああ……一生に一度の願いだ」
(一生に、一度の……)
シュテルさんの強い眼差しに射抜かれ、胸の鼓動が鳴りやまなくなる…-。
シュテル「生まれて初めて、自分のために願う。 僕は、君の運命の相手になりたい」
(シュテルさん……!)
シュテルさんは私をまっすぐに見つめ、赤いゼラニウムの花束を取り出した。
シュテル「水鏡は必要なかった。 今、僕の心は君だけを映しているから」
(シュテルさんも、私のことを……)
嬉しさで胸をいっぱいにしながら、そっと花束を受け取った。
〇〇「私の心にも、シュテルさんが映っています。 どうか……私をずっと、シュテルさんの傍にいさせてください」
花に顔を埋めるように言葉を紡ぎ、精一杯の想いを返す。
すると、シュテルさんの温かな腕が私を優しく包み込んで……
ゼラニウムの花束ごと、私を大切に抱きしめてくれた。
シュテル「君を抱きしめるこの瞬間、僕は永久の時を生きている…-」
シュテルさんの言葉が、甘い痺れとなって私の耳をくすぐる。
シュテル「僕は君を泣かせることになるかもしれない……。 でも、この命の光が尽きる時まで、その笑顔を見せてほしい」
(シュテルさん……)
〇〇「はい……ずっと傍にいてください」
二人の手を重ね、離れないようにしっかりと指を絡め合う。
シュテル「ここで誓いを交わそう。星達が証人だ」
(シュテルさん……)
柔らかく落とされた誓いの口づけは、甘い刻印のように、頭の芯を痺れさせ…-。
シュテル「……」
名残惜しげに唇を離した後、シュテルさんは黙って腕を差し出した。
(あ……)
その意味に気づき、照れ混じりに腕を組むと……
星の光を散りばめた純白のベールが、私の髪にふわりとかけられた。
シュテル「〇〇……僕のかわいい花嫁」
シュテルさんの青い瞳が、愛おしげにゆっくりと瞬く。
二人寄り添いながら、流星に乗って星屑のウェディングロードを渡る。
その道には、命の煌めきと……温かな幸せが散りばめられているような気がした…-。
おわり。