幸せそうな二人の背中を見送った後…-。
シュテル「そろそろ日が暮れる……行こう」
夕焼けに染まる空を見上げ、シュテルさんがまぶしげに目を細めた。
〇〇「そうですね。神官様にも水鏡が直ったことをお伝えしないと……」
そこまで話して、はっとあることが思い当たる。
シュテル「どうした?」
先に歩き出していたシュテルさんが、肩越しに私を振り返る。
(水鏡が直ったということは……)
婚宴の儀の後、私は水鏡に祈りを捧げる役目を担っていた。
〇〇「もし、私の運命の人が儀式に参列していたら……?」
口の中でつぶやいた言葉に、シュテルさんが短く答える。
シュテル「……鏡が光って、その相手を教えるそうだ」
(儀式に出れば、私の運命が示させる…-)
そう思うと、にわかに戸惑いが浮かぶ。
(もし、その人がシュテルさんじゃなかったら……?)
想像しただけで、心に切ない影が落ちた。
(私、やっぱりシュテルさんのことが…-)
シュテル「……やはり、気になるか?」
〇〇「え……?」
シュテル「運命の相手が近くにいなければ、鏡は反応しない。 でも……君が望むなら、願いを叶えてやりたい」
シュテルさんのまっすぐな瞳に、迷いの色は見えない。
(それって、まさか……)
悲しい予感が胸を打ち、私は続く言葉を見失う。
シュテル「星屑時計の力で、君の運命の相手をここへ……」
〇〇「そ、そんな、やめてください!」
私はシュテルさんの腕を掴み、遮るように声を上げる。
〇〇「シュテルさんは勘違いをしています。私は運命の人を知りたいんじゃありません」
シュテル「〇〇……?」
〇〇「私は、ただ…-」
シュテルさんの腕をそっと解き、消え入りそうな声で告げた。
シュテル「ただ……?」
〇〇「運命の相手だったらいいなと……そう想う人がいるだけです」
私の想い人がシュテルさんだということは、つい伏せてしまう。
すると……
シュテル「そうか……」
そのつぶやきから、彼の感情は読み取れなかった。
〇〇「はい……だから、最初に鏡を見るなら、その人と一緒がいいです」
私はシュテルさんを見つめ、暗に言葉を含ませる。
けれど、シュテルさんは何も答えず……
痛みをこらえるように、すっと顔を背けた。
(シュテルさん……?)
シュテル「……少し話しすぎたようだ。 ここからは、星達の時間だ」
ふと視線を上げると、夜空に浮かぶ一番星が哀しげに瞬いていた…-。