シュテル「……大丈夫だ。水鏡は直る。 二人の願いを叶えよう」
シュテルさんの言葉が、私の胸を揺さぶる…-。
女性「あなたが水鏡を直せるんですか……!?」
ずっと泣いていた女性が顔を上げ、すがるようにシュテルさんを見つめた。
シュテル「ああ、すぐにでも」
喜ぶ二人に向かい、シュテルさんは微笑みを浮かべて静かに頷く。
〇〇「シュテルさん……!」
シュテルさんの傍に寄り、その冷たい手にそっと触れた。
シュテル「……」
シュテルさんは私を見つめ、穏やかな微笑みを返す。
シュテル「……これでいいんだ」
(シュテルさんが二人を助けてあげたい気持ちは、痛いほどわかる)
〇〇「でも……私は嫌です」
切実に訴える声は、か細く震えてしまう。
〇〇「シュテルさんが力を使わなくても、他に何か方法が……」
シュテル「駄目だ……二人には時間がない」
(そんな……)
シュテルさんは優しく目を細め、私の頬を指の背でそっと撫でる。
シュテル「僕がそうしたいから……いいんだ」
私の悲しみすら受け入れるように、シュテルさんは優しく頷いてみせた。
シュテル「行こう」
シュテルさんは二人を伴い、もう一度神殿へと戻っていく。
(シュテルさん……)
私は胸を詰まらせながらも、その背中を追いかけた。
…
……
ステンドグラス越しに差し込む夕陽が、神殿の壁に柔らかな光を描き出す…-。
シュテル「……」
水鏡の前に立ったシュテルさんが、細く長い息を吐くと……
星屑が尾を引くように、煌めく流星が生まれ落ちた。
シュテル「……」
シュテルさんが流れ星に囁けば、星屑時計が輝き始め……
(あ……)
それと呼応するように、水鏡が淡い光で包まれる。
(直ったの……?)
光が消えた頃、振り返ったシュテルさんが二人を促した。
シュテル「見てみるといい」
二人「はい……!」
二人は迷うことなく、揃って水鏡を覗き込み……
男性「映った……!」
女性「それじゃ、私達は……!」
二人は顔を見合わせ、深く抱きしめ合う。
(やっぱり、二人は運命の相手だったんだ……)
二人の固い絆に胸を打たれながら、シュテルさんの横顔を見つめる。
(これで、本当によかったのかな……)
シュテルさんは、自分の寿命と引き換えに願いを叶えたことなど、少しも気に病む様子はなく……
シュテル「……」
喜ぶ二人の姿を見つめ、嬉しそうに微笑んでいた。
(シュテルさん……)
星屑時計の砂が落ちる度、シュテルさんの温もりが少しずつ遠ざかるようで……
シュテル「どうした?」
〇〇「いえ……」
私はシュテルさんを近くに感じながら、切ない胸の痛みにこらえていた…-。