沈みゆく夕陽が、街の輪郭を柔らかく縁取っていく。
シュテルさんと一緒に、神殿の門へ向かっていると……
(あの人達、何をしてるんだろう?)
一組の若い男女が、神殿の前で呆然と立ち尽くしていた。
女性「私達、このまま一緒になれないの……?」
突然、女性が堰を切ったように涙を流し始める。
男性「諦めちゃ駄目だ、必ず方法があるはずだから……」
困惑した様子の男性が、女性の肩を抱いて必死に慰めていた。
(何か事情が……?)
〇〇「シュテルさん……」
シュテル「……」
気になった私は、シュテルさんと目を合わせて頷く。
二人の傍に近づき、控えめに声をかけた。
〇〇「あの、何かお困りですか?」
すると、切羽詰まった様子の男性が事情を話してくれた。
男性「実は、運命の相手が映るという水鏡のことを知って、この神殿までやって来たんですが。 今、水鏡が壊れていると聞いて……」
女性は男性の胸に顔を埋め、またしくしくと泣き出した。
〇〇「今、神官様が修復方法を探してくださっています。きっと直りますよ」
私は二人を励ますように、そっと声をかける。
シュテル「だが、いつ直るという保証はない……」
シュテルさんの言葉に、男性はがっくりと肩を落とす。
男性「彼女は親の決めた結婚を強いられていて、明日が結婚式なんです」
〇〇「そんな……」
思い合う二人にとって、耐えがたい現実に胸が痛む。
女性「私が好きなのは、あなただけなのに……」
男性「僕も同じ気持ちだ。絶対に君を離さない」
二人の話を聞いていたシュテルさんが、確かめるように口を開いた。
シュテル「……明日が結婚式だと言ったね」
男性「ええ……なので、どうしても今日中に、僕達が運命の相手だと証明したかったんです」
〇〇「そうだったんですね……」
(神官様も、水鏡を直す手立てを懸命に探していらっしゃったけれど……)
残念ながら、今日中に水鏡が直るとは言い切れなかった。
(どうすれば……)
沈痛な面持ちの二人を見つめ、考えを巡らせていると……
シュテル「……大丈夫だ。水鏡は直る」
シュテルさんの落ち着いた声が、はっきりと耳に届く。
(まさか……)
シュテル「二人の願いを叶えよう」
シュテルさんは少しのためらうことなく、そう二人に告げた。
男性「ほ、本当ですか!?」
シュテル「ああ……今すぐに」
(シュテルさん……!)
二人の願いが叶えば、その分シュテルさんの命が削られる。
シュテル「……」
透き通るような青い瞳の奥に、儚く消える星影を見たような気がした…-。