第4話 2人の願い

沈みゆく夕陽が、街の輪郭を柔らかく縁取っていく。

シュテルさんと一緒に、神殿の門へ向かっていると……

(あの人達、何をしてるんだろう?)

一組の若い男女が、神殿の前で呆然と立ち尽くしていた。

女性「私達、このまま一緒になれないの……?」

突然、女性が堰を切ったように涙を流し始める。

男性「諦めちゃ駄目だ、必ず方法があるはずだから……」

困惑した様子の男性が、女性の肩を抱いて必死に慰めていた。

(何か事情が……?)

〇〇「シュテルさん……」

シュテル「……」

気になった私は、シュテルさんと目を合わせて頷く。

二人の傍に近づき、控えめに声をかけた。

〇〇「あの、何かお困りですか?」

すると、切羽詰まった様子の男性が事情を話してくれた。

男性「実は、運命の相手が映るという水鏡のことを知って、この神殿までやって来たんですが。 今、水鏡が壊れていると聞いて……」

女性は男性の胸に顔を埋め、またしくしくと泣き出した。

〇〇「今、神官様が修復方法を探してくださっています。きっと直りますよ」

私は二人を励ますように、そっと声をかける。

シュテル「だが、いつ直るという保証はない……」

シュテルさんの言葉に、男性はがっくりと肩を落とす。

男性「彼女は親の決めた結婚を強いられていて、明日が結婚式なんです」

〇〇「そんな……」

思い合う二人にとって、耐えがたい現実に胸が痛む。

女性「私が好きなのは、あなただけなのに……」

男性「僕も同じ気持ちだ。絶対に君を離さない」

二人の話を聞いていたシュテルさんが、確かめるように口を開いた。

シュテル「……明日が結婚式だと言ったね」

男性「ええ……なので、どうしても今日中に、僕達が運命の相手だと証明したかったんです」

〇〇「そうだったんですね……」

(神官様も、水鏡を直す手立てを懸命に探していらっしゃったけれど……)

残念ながら、今日中に水鏡が直るとは言い切れなかった。

(どうすれば……)

沈痛な面持ちの二人を見つめ、考えを巡らせていると……

シュテル「……大丈夫だ。水鏡は直る」

シュテルさんの落ち着いた声が、はっきりと耳に届く。

(まさか……)

シュテル「二人の願いを叶えよう」

シュテルさんは少しのためらうことなく、そう二人に告げた。

男性「ほ、本当ですか!?」

シュテル「ああ……今すぐに」

(シュテルさん……!)

二人の願いが叶えば、その分シュテルさんの命が削られる。

シュテル「……」

透き通るような青い瞳の奥に、儚く消える星影を見たような気がした…-。

 

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