月SS 芽生えた気持ち

〇〇と一緒にやって来た雪原で、雪ウサギを狙う密猟者と遭遇した後…―。

カルト「許せない……許せない……」

(ぼくが守り切れなかったから……)

密猟者によって放たれた銃弾は、〇〇の腕をかすめ……

彼女はぼくに笑いかけてくれるものの、その表情には苦痛の色が浮かんでいた。

(あなたにこんな顔をさせるなんて許せない……)

(怪我を負わせたあの男も、それを防げなかったぼく自身も)

胸の中が、どんどんと冷たく暗い気持ちに覆われていく。

〇〇「カルト……さん……?」

カルト「帰ろう……」

様子を伺うようにこちらを見つめる〇〇を、強くだきしめる。

そして……

(これからは、ぼくが守らなきゃ)

(何があっても、絶対に……)

〇〇を支えて城へと戻る間、ぼくは心の中で、ずっとそうつぶやいていた…―。

……

それから数日…―。

カルト「あれ……?〇〇、どこ?」

部屋を訪ねるものの、彼女の姿が見当たらない。

(どこにいるの……?)

廊下に出て、彼女を探す。

(いない……)

(ということは……街かな?)

そう思った次の瞬間……

(……もしかして、誰かと一緒に?)

カルト「……」

あっという間に、胸の奥が冷たく暗い気持ちに支配される。

カルト「早く見つけないと。 ぼくが守らなきゃいけない……」

気づけば、ぼくは街に向けて猛然と駆けだしていた…―。

……

街までやって来たぼくは、辺りを見渡す。

(あれは……?)

楽しそうに遊ぶ子ども達の方へと向かうと、輪の中に彼女の姿があった。

(見つけた……)

(何、してるんだろう……?)

目を凝らすと、〇〇は子ども達と一緒に雪玉を転がしている。

すると彼女についている兵士が、その雪玉をもう一つの雪玉の上にのせた。

(雪だるま……)

〇〇「完成だね!」

子ども達が、雪だるまの周りを踊り出した。

子ども「お姉ちゃんも!」

〇〇「え……?」

子どもに腕を引かれたヒメが、踊りの輪に加わる。

けれど、その時…―。

〇〇「っ……!」

〇〇が凍った地面に足を滑らせる。

(転ぶ……)

ぼくは慌てて駆けだしたものの、間に合わず彼女は転んでしまった。

〇〇「痛い……」

兵士「大丈夫ですか!?」

(あ……)

兵士が手を引き、彼女を立ち上がらせる。

(駄目だ……触るな……)

心の中が、今までにないほど冷たく黒い気持ちで覆われていく。

〇〇「ありがとうございます」

兵士「いいえ」

コートについた雪を払う兵士に彼女が笑いかけた、その時……

(駄目だ……彼女の笑顔は、ぼくの…―)

頭の中で何かが弾けるような音が聞こえ、ぼくは彼女の腕を引き寄せた。

〇〇「え……?」

彼女が驚いたような瞳でぼくを見つめる。

〇〇「カルトさん……?」

カルト「駄目……」

〇〇「え……?」

カルト「駄目だ……」

彼女の腕を掴んだまま、ぼくは城へと歩き出した。

〇〇「カルトさん……?」

(あなたが傷つくのも……他の誰かがあなたを助けるのも、許せない)

後ろで〇〇が何かを言っているけれど、構わず雪を踏みしめていく。

(その笑顔を、他の誰かに向けて欲しくない……)

(〇〇のすべてが欲しい……)

(笑顔も、温もりも、すべて……)

ぼくはその場でぴたりと足を止めた後、どんどんと膨れ上がる気持ちに、身をゆだねるように瞳を閉じる。

そして……

(〇〇は、ぼくだけのもの……)

瞳を開いた後、再び静かに歩き出す。

雪が、ただ静かにぼく達の元へと舞い落ちて来た…―。

 

おわり。

 

<<月最終話